学部・研究科・附属病院の歴史

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芸術工学部・芸術工学研究科

芸術工学部・芸術工学研究科の歴史

「芸術工学」と教育(1996年4月〜2000年3月)

「芸術工学」の5つの特徴

 平成8年(1996)4月、芸術工学部は2学科各30名の合計60名を迎えて設立され、実際の教育が始まった。名古屋市立大学の「芸術工学」の特徴は、5つに集約できる。
 第1の特徴は、英語名称に“Architecture”が含まれていることである。繰り返しになるが、これは建築にとどまらず、IT分野におけるコンピュータやソフトウェアの基本設計、仕様、思想を含んだものであった。
 この姿勢は、第2の特徴であるコンピュータ教育につながった。というのは、芸術工学部では国際競争力強化を目的に「コンピュータデザイン」を重視し、最新のコンピュータ技術の活用を目指した。もちろん、近年ではコンピュータ利用は一般化し、直感的な操作が可能なタブレットPCやスマートフォンがありふれた日常となっているから、本学の特徴ということは難しい。しかし、この時期に2学科60人分のコンピュータを大学に設置して豊富なソフトを整えたこと、学生も各自アップル社のマッキントッシュ(Power PC520C)とソフト(クラリスワークス)、デジタルカメラを購入したことは、先駆的な取り組みといっていいだろう。実際、開講初日にナゴヤドームの建設現場に赴いたあと、学生は写真入りのレポートを作成してフロッピーディスクでの提出を求められるなど、積極的に活用した(図3)。一方、手描きのスケッチや模型製作も重視し、コンピュータの弱点の理解も促すことも忘れなかった。

図3 建設中のナゴヤドームの見学会(平成8年(1996)4月15日)
図3 建設中のナゴヤドームの見学会(平成8年(1996)4月15日)

 第3の特徴は、「ファシリティ・マネジメント」(FM)を重視したことで、「ことのデザイン」を換言したものともいえる。ファシリティ・マネジメントという言葉は、オフィス環境を整える概念として登場したが、名古屋市立大学の芸術工学では、空間からひとつひとつの道具というミクロな視点と都市スケールの人工的な環境といったマクロな視点を総合的に捉えようとするものであった。
 第4の特徴はヘルス・ケア・デザインで、芸術工学教育の柱のひとつとされた。背景には、名古屋市立大学が、その出自である薬学部と医学部という医療系の学部を核とする総合大学であること、時代が少子高齢化の局面に入りつつあったことから、「健康を支える環境デザイン」を重視する方針があった。九州芸術工科大学は平成15年(2003)に九州大学と統合したが、当時、総合大学の芸術工学部は本学が唯一であったから、その特徴を最大限活かして学際的な発展を期したのである。
 第5の特徴は都市景観で、これも当初の芸術工学教育の柱のひとつとなった。都市は人間が人工的に造りあげたものであるが、自然環境や歴史的遺産を保存・活用することも大切であるし、多面的な要素を含む。よって、芸術工学部では照明や音響を活かしたランドスケープ・デザインをも含む広義の都市景観デザインを重視した。これは教育面にとどまらず、芸術工学部が平成9年(1997)に名古屋市で開催される世界都市景観会議の主催団体であったように、実践を重視した証左でもあった。
 このように、「ものづくり」を中心とした生活環境デザイン学科と「ことづくり」を中心とした視覚情報デザイン学科という2つの学科による組織構成、そして「都市景観」と「健康」という2つのキーワードは、ソフト/ハードという対に集約できるが、いずれも不可分な関係にあり、学生と教職員の距離の近い少人数教育とも関係している。なお、これらは芸術工学部設置の際の社会的要請、すなわち「デザイン、映像情報に関する研究開発・教育需要への対応」、「デザインに関する研究開発機能の充実」、「デザイン都市名古屋の創造への対応」の3つの軸に則したものでもある。

図3 建設中のナゴヤドームの見学会(平成8年(1996)4月15日)
図3 建設中のナゴヤドームの見学会(平成8年(1996)4月15日)


研究と教育の4つの特徴

 名古屋市立大学の芸術工学教育で期待する人材は、総合デザイナーとしての素質の涵養である。その研究と教育が目指す人物像は、大きく以下の4つにまとめられる。

  1. 将来予測と社会性:貪欲な好奇心と将来的な社会を創造するデザイナー
  2. 独創性:自分の意見を持ちながらも、社会的共感を得るべく努力できるデザイナー
  3. プレゼンテーション:先端的なメディアを駆使しながら、感性豊かな表現力を伴うプレゼンテーション技術を身につけたデザイナー
  4. 協調性:単独でも協働でも仕事をまとめられる柔軟な思考力をもったデザイナー

 視覚情報デザイン学科は「都市景観」をキーワードの下位に、「視覚・映像デザイン」、「都市景観・都市情報」、「画像・情報工学」の3つの領域を設けて研究と教育に取り組んだ。実際の教育において、学生は学部共通の基礎科目として、情報処理、数学基礎、造形基礎実習、造形応用実習を履修した上で、画像情報工学、画像情報処理などの専門科目が課された。その先には3つのモデルコース、すなわち「A画像・映像デザイン」、「B画像情報デザイン」、「C景観デザイン」が用意された。当然ながらこの3つは互いに補完し合い、むすびついているし、もうひとつの学科である生活環境デザイン学科との関わりも強かった。