学部・研究科・附属病院の歴史

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人文社会学部・人間文化研究科

人文社会学部・人間文化研究科の歴史

人文社会学部の年表と略史ー学部設置から学科再編まで

1. 年表

平成8年(1996) 名古屋市立大学に人文社会学部設置。
人間科学科、現代社会学科、国際文化学科の3学科。入学定員はそれぞれ50名、50名、55名(うち5名は私費外国人留学生・帰国子女学生)、第三年次編入学生は人間科学科10名、現代社会学科10名で、計165名(うち第三年次編入学生10名)。
保育士資格課程設置。
平成9年(1997) 人文社会学部棟(現1号館)完成。
前身校の名古屋市立保育短期大学、名古屋市立女子短期大学閉学。
平成12年(2000) 大学院人間文化研究科人間文化専攻 修士課程設置(入学定員15名)。
平成14年(2002) 大学院人間文化研究科人間文化専攻 博士後期課程設置(入学定員5名)。
修士課程を博士前期課程とする。
幼稚園教諭一種免許状資格課程設置。
大学院人間文化研究科を部局化する
平成15年(2003) 人間文化研究科人間文化専攻博士前期課程の入学定員を25名に増員。
平成17年(2005) 人間文化研究科附属研究所の人間文化研究所を設立する。
平成18年(2006) 名古屋市立大学は法人化され、公立大学法人名古屋市立大学となる。
中学校教諭一種免許状(英語、社会)資格課程設置。
高等学校教諭一種免許状(英語、地理歴史、公民)資格課程設置。
社会福祉士国家試験受験資格課程設置。
大学院に中学校教諭専修免許状(英語、社会)資格課程設置。
大学院に高等学校教諭専修免許状(英語、地理歴史、公民)資格課程設置。
平成25年(2013) 人文社会学部を再編し、人間科学科を心理教育学科に名称変更。
入学定員を増員して心理教育学科60人、現代社会学科70人、国際文化学科70人とし、計200名(うち第三年次編入学生6名)とする。
平成27年(2015) 人文社会学部創立20周年記念事業を実施。
平成29年(2017) 大学院人間文化研究科に臨床心理コース設置(入学定員10名)。
臨床心理士養成課程、
平成30年(2018) 公認心理師養成課程設置。
平成31年(2019) スクール(学校)ソーシャルワーク教育課程設置

 

2. 人文社会学部・人間文化研究科略史

(1)人文社会学部の成立とその前身校

吉田 一彦
人間文化研究科教授
吉田 一彦

吉田 一彦
人間文化研究科教授
吉田 一彦

 人文社会学部は、平成8年(1996)4月、芸術工学部、自然科学研究育研究センターとともに成立した。この時、名古屋市立大学に新部局が誕生したのは、「市立三大学統合」によるものだった。市立三大学統合とは、名古屋市立女子短期大学、名古屋市立保育短期大学、名古屋市立大学教養部の三者の統合のことで、これらを改組、再編して名古屋市立大学の三部局が誕生した。
 名古屋市立女子短期大学は、昭和22年(1947)に成立した名古屋市立女子専門学校を母体に同25年(1950)に設置された短大で、経済科、被服科、生活科の三科からなっていた。名古屋市立保育短期大学は、昭和23年(1948)に成立した名古屋市立保育専門学園を母体に同28年(1953)に設置された短大で、保育科の一科で出発したが、昭和52年(1977)に初等教育科が増設され、二科からなっていた。この両短大の歴史は、本誌所収の吉田一彦・浅岡悦子・手嶋大侑「名古屋市立大学の歴史」に叙述したので、詳しくはそちらを参照されたい。両短大には早くから四年制大学化への意志があり、1980年代後期~90年代前期には具体案が構想されるようになっていた。
 名古屋市立大学の教養部は同25年(1950)に成立し、全学の教養教育の企画、運営、実施を行なう部局として長く歴史を歩んできた。大きな転機はその約40年後に訪れた。平成3年(1991)、文部省は大学設置基準を改訂し(「大綱化」と呼ばれる)、これにより全国の国公立大学の教養部が短期間のうちに改組、再編されることになった。名古屋市立大学においても教養部の廃止、再編が具体的に検討された。
 そうした動向を受けて、平成8年、市立三大学統合がなされ、両短大は閉学、教養部は廃止となり、代わって人文社会学部、芸術工学部、自然科学研究教育センターが設置された。人文社会学部は、人間科学科、現代社会学科、国際文化学科の三学科で編成された。校地・校舎は山の畑キャンパスに設けられ、学部開設時には教養棟(現2号館)が完成して新入生はここで学び、人文社会学部棟(現1号館)は未完成だったが、翌9年(1997)に完成して使用が開始された。市立三大学統合の経緯や学部設置の頃の人文社会学部の姿については、次の丹羽孝「人文社会学部の25年と教育理念としてのESD」に詳しいので参照されたい。
 学部が完成するとただちに大学院が設置された。平成12年(2000)4月、大学院人間文化研究科の修士課程を設置した。続けて同14年(2002)4月、大学院人間文化研究科の博士後期課程を設置した。これにともない、修士課程を博士前期課程とした。大学院人間文化研究科の設置とその特色については、村井忠政「大学院人間文化研究科と人間文化研究所」が詳述する。


(2)資格課程の整備

 人文社会学部開設時に設置された資格課程は保育士資格課程で、人間科学科に設置された。これは名古屋市立保育短期大学保育科の資格課程を継いで設置されたものである。その後、平成14年(2002) 、新たに幼稚園教諭一種免許状資格課程を設置した。これにより、学生は保育士資格と幼免をともに取得することができるようになり、進展が予測される幼保一元化に対応することにした。
 この間、学生、受験生の間に資格取得の志向が高まる傾向が顕著に見られるようになった。平成16年(2004)、山田明教授(地方財政論)が研究科長に就任した。山田は資格課程の増設に意欲を示し、研究科の法人化準備委員会や教授会において議論を重ね、幼免課程を基盤として中学・高校の教職課程を立ち上げる方向性をまとめた。山田は、カリキュラム改定委員会の委員長だった吉田一彦をともなって文科省に事前相談に赴いた。学士課程に中学校教諭一種免許状(英語、社会)、高等学校教諭一種免許状(英語、地理歴史、公民)を、大学院課程にそれらの専修免許状の課程を立ち上げることに大きな問題はなかった。まもなく設置の申請がなされ、無事認可されて、平成18年(2006)4月、これらの資格課程が発足した。
 それと並行して、社会福祉士国家試験受験資格の過程を設置する案件も進展した。こちらに関しては、社会福祉学の滝村雅人教授が尽力し、同じく平成18年(2006)4月に資格課程が発足した。
 資格課程については、その後、平成29年(2017)、大学院に臨床心理コース(入学定員10名)を設置し、臨床心理士の養成を開始した。これの設置については、平成26年(2014)より研究科長に就任した伊藤恭彦教授が尽力した。さらに、その後も公認心理師養成課程(学士課程卒業後、大学院にて所要の単位を修得して修了する等の要件あり)やスクール(学校)ソーシャルワーク教育課程が設置されて現在に至っている。なお、臨床心理士養成課程について詳しくは、本誌所収、坪井裕子・山中亮「臨床心理コースの運営・教育について」を参照されたい。


(3)人文社会学の教育研究の理念とその発展

 人文社会学部設置の目的は、一つは、新しい時代に対応した豊かで人間らしい生き方を探求するため、現代の人間、社会、文化に関わる諸問題を科学的・総合的に分析して解決する人材を育成することであり、もう一つは、名古屋市を文系理系両方の人材を有する豊かな町にするため、文系を専門とする優れた人材を育成することであった。この目的を達成するため、人文社会学部は「豊かで人間らしい生き方(ウェルビーイング)」を学部の理念に掲げ、「人間」「社会」「文化」をキーワードに三分野にわたる学科を編成した。学部設置後10年余は、この理念を正面に掲げてひたむきに進んでいった。
 平成18年(2006)4月、名古屋市立大学は法人化され、公立大学法人名古屋市立大学が誕生した。その頃、人文社会学部/人間文化研究科では、学部・研究科の新しい方向性の模索が始まった。21世紀の新しい時代にそくした新しい人文社会の教育、研究の方向性はどこに求められるか、名市大の人社にふさわしい方向性はどのようなものか。
 議論は難航が予想されたが、幸い、若手教員を中心にする「名市大ESD研究会」があり、新しい学問の考え方や、教育のあり方について研究が始められていた。学部・研究科の教員たちは種々の意見交換を重ね、ESD(持続可能な開発のための教育〈Education for Sustainable Development〉)を学部・研究科の理念として掲げる方向で踏み込んだ検討を進めることになった。その中心になり、理論的支柱になったのは教育学の成玖美准教授だった。「多分、誰もESDを知らなかった時代に、ESDはこれから名市大にとって重要なキーワードになるのではないかという直感がありました」と後に成は回顧している[成玖美2013]。将来計画委員会や教授会では、成が作成した花弁のような美しい人文社会学部ESD理念図が提示され、学部・研究科の方向性についての議論が進められ、平成20年(2008)9月、「人社の方向性に関する案」が教授会で審議、決定された。こうした議論を経て、人文社会学部/人間文化研究科の新しい教育研究上の目的は、「豊かで人間らしい生き方のための持続可能な地域社会と地球社会をつくる教育」となった。


(4)学科再編とカリキュラム改訂

 平成18年(2006)の法人化後、人間文化研究科長は、2年ごとに有賀克明教授(教育学)、吉田一彦教授(日本史学)、藤田栄史教授(社会学)、別所良美教授(哲学)と推移した。同20年9月の人社の方向性決定後、ESDを教育研究の中核にすえる改革案はより具体的なものへと高められ、学科再編、学生定員の増員、そしてカリキュラム改革などが次々と決定されていった。
 学科再編に関しては、一方に2学科制案が提起されたが、他方に1学科3コース制や4コース制の1学科コース制案、4学科制案などが提案された。種々議論の末、学科は3学科制とするが、内容を組み替えて、社会福祉部門を人間科学科から現代社会学科に移し、日本文化部門を現代社会学科から国際文化学科に移し、現代思想部門を国際文化学科から現代社会学科に移すこととした。人間科学科を心理教育学科とすることも決定された。また、学生の入学定員の増員を行なって学士課程の規模を拡大するとともに、それによって教員ポストを2ポスト増とする案が提起され、大学本部および設置者の理解を得て実現した。新カリキュラムにはESDの科目や関係科目を大きく導入することとし、特に学部の「基礎科目」はESD科目を中心に全面更新することとした。
 平成25年(2013)4月、新しい人文社会学部が再出発を遂げた。人文社会学部は、心理教育学科(入学定員60人)、現代社会学科(入学定員70人)、国際文化学科(入学定員70人)の三学科編成となり、入学定員は従前の165名(うち第三年次編入学生10名)から200名(うち第三年次編入学生6名)となった。新しい平成25年(2013)度カリキュラムでは、学部全学生が学ぶ基礎科目としてESD基礎科目が9科目(各2単位)設置され、学生にはそこから選択必修で5科目10単位を修得させることとした。「多様性理解の心理学」「次世代育成の教育論」「多文化共生の心理学」「ジェンダーで見る現代社会」「持続可能な日本社会論」「現代社会と福祉」「グローバル社会と文化変容」「共生のコミュニケーション」「世界の中の日本文化」の9科目である。
 このカリキュラムは平成25年(2013)度~30年(2018)年度の5年間実施され、同31年(2019)度からは新しいESD基礎科目に衣替えがなされて現在に至っている。この間、人間文化研究叢書の別冊としてESDブックレットが3冊刊行された。今後、人社のESDをさらに個性化し、発展させていくことは、大きな、そして魅力ある課題になっている。

参考文献
成玖美「名古屋市立大学人文社会学部ESDへの歩み」(名古屋市立大学人文社会学部編『ESDと大学』〈ESDブックレット1〉風媒社、2013年)