学部・研究科・附属病院の歴史

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芸術工学部・芸術工学研究科

芸術工学部・芸術工学研究科の現在

芸術工学部の社会貢献

研究室による社会活動と貢献

 芸術工学部では、学生や教員が専門性を活かして積極的に社会貢献に取り組んでおり、それは学内から全国にまでおよぶ。
 まず芸術工学部と名古屋市立大学に目を向けると、芸術工学部のアセンブリーホールのリニューアルは、建築設計を専門とする伊藤恭行が担当した(平成22年(2010)9月)。伊藤は建築家として建築設計事務所を共同主宰し、椙山女子大学や中京大学などの教育施設や公共施設の設計も手かげている。同じく芸術工学部の管理棟と研究棟の間にある中庭の駐輪場は、建築家の久野紀光と久野研究室の設計で、平成26年2014)のグッドデザイン賞を受賞している(平成21年(2009)、図15)。いずれも、建築を学ぶ学生にとって身近に空間を体験できる教科書になっている。
 また、桜山キャンパスにある名古屋市立大学病院のエントランスの改修、アトリウムや病棟の壁、天井の装飾は、建築分野で医療施設の研究に取り組む鈴木賢一とテキスタイルデザインを専門とする藤井尚子を中心に、研究室の学生が取り組んだ成果である(図16)。こうした活動は「ホスピタル・アート」といわれ、患者や医療従事者のストレス軽減を目的に研究と実践が重ねられてきた。鈴木研究室では「なごやヘルスケア・アートマネージメント」を推進しており、名古屋第一赤十字病院やあいち小児医療センターなど名古屋市内外の医療機関にもおよぶ。藤井研究室では伝統技術を活かした入院患者の病衣の提案や名古屋市の海外来賓への贈答品を包む「金うろこ」の制作も行なった。

図15 NCU Bicycle Park(ⓒphoto by Tatsuya Noaki)
図15 NCU Bicycle Park(ⓒphoto by Tatsuya Noaki)

図16 小児病棟でのペインティング
図16 小児病棟でのペインティング

 名古屋市立大学65周年の記念事業では、映像の制作とプロデュースを専門とする栗原康行と栗原研究室が「儚時計」を制作・上映した(平成28年(2016)3月、図17)。栗原研究室では、千種区のプロモーションビデオ、名古屋市環境局の「なごや環境デー」や環境問題啓発の映像を制作・上映にも取り組んでいる。
 つぎに名古屋市における活動に目を向けると、グラフィックデザインを専門とする森旬子と森研究室では、東山動植物園のサイン計画や「絶滅の危機からの復活」をコンセプトとしたリーフレットの作成を手がけた(図18)。森研究室では、名古屋市水道局のロゴを考案したほか、アートを軸に地域活性を図る徳島県神山町のサイン計画も担当している。なお、毎年更新される芸術工学部・芸術工学研究科の紹介パンフレットも森研究室のデザインである。
 名古屋市営地下鉄では電車が接近を知らせるメロディが流れるが、これは音楽理論とコンピュータ音楽を専門とする水野みか子が作曲した(平成19年(2007)3月)。水野は名古屋フィルハーモニー交響楽団の理事をはじめ、コンサートの企画や運営などにも貢献している。
 また、名古屋市博物館の特別展「感じる縄文時代」では、NFCタグと3D技術を組み合わせた展示説明を、横山清子と横山研究室が担当した(平成26年(2014)12月)。来場者は特別なアプリをインストールすることなく、スマートフォンホなどの端末をタッチするだけで、展示物の説明や展示物の裏側を鑑賞することができた。これは眼前の展示物をリアルに確認しつつ、バーチャルにも楽しめる技術であった。
 このほか、第2次世界大戦で焼失した名古屋城本丸御殿の復元は、建築史が専門の溝口正人が中心となって進めた。溝口研究室は、向口武志らと協働で歴史的建築物の調査を進めているほか、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている緑区の有松や豊田市の足助などのまちなみ調査も手がけ、文化財行政に貢献している。
 当然ながら歴史的建造物の保存において耐震性の向上は重要であるが、起こりうる災害や建築の構造によっても異なる。半田市にある旧ビール工場の半田赤レンガ建物は、建築構造と材料を専門とする青木孝義が張景耀と協働して耐震性能を診断した。青木研究室では、常滑市に点在するレンガ煙突の劣化診断のほか、イタリアやブータンの世界文化遺産をはじめとする歴史的建築物の評価も手がけている。
 しばしば報道されるように、文化財をどのように火災から守るかは建築分野における重要な課題である。近年では、共にユネスコ世界文化遺産に登録されている那覇市の首里城やパリの大聖堂の焼失は記憶に新しい。これはまちなみでの同じで、足助では建築の安全計画を専門とする志田弘二と志田研究室が火災延焼をコンピュータでシュミレーションし、行政と協働しながら防災計画を立案し、報告書にまとめている。
 最後に、平成23年(2011)3月11日の東日本大震災など、非常時の貢献にも触れておきたい。そのうち、久野研究室では、震災について知り、考えることを目的に津波で失われたまちの模型を1/500で復元、展示した。模型は全国を巡回し、名古屋では芸術工学棟アトリウムで開催された(平成24年(2012)3月)。また、時間と共に風化する記憶を継承するため、コンピュータグラフィックスを専門とする高橋伸雄は、現地で1,000枚を超える写真を撮影し、約2年をかけて津波で民宿に乗りあげた岩手県釜石市の観光船「はまゆり」を復元し、約2分の映像にまとめた(図19)。

 図17 「儚時計」のポスター
図17 「儚時計」のポスター

図18 「東山動植物園・アメリカゾーン」リーフレット
図18 「東山動植物園・アメリカゾーン」リーフレット

図19 観光船「はまゆり 」の復元CG
図19 観光船「はまゆり 」の復元CG


学生による社会活動と貢献

 芸術工学部では、学生も社会貢献に積極的に取り組んでいる。
 名古屋で開催されたCOP10では、機運を高めることを目的に学生有志がクリアファイルなどのノベルティを提案し、配布した(平成22年(2010)10月)。東山公園春まつりで、エコバックやタンブラーなどのグッズをデザインしているし(平成23年(2011)3月)、名古屋開府400年のファイナルイベントとなる「NAGOYAアカリナイト」では、名古屋テレビ塔に50基200灯のランプシェイドで装飾し(平成23年(2011)11月)、名古屋高速の高架下のうち千種区振町から田代町の180mに設けた「和みの散歩道」は、学生がデザインを担った。このほか、名古屋市内の歴史と文化を紹介するアプリ「名古屋歴史スマートナビ」(通称:ナゴスマ)の制作協力も学生の社会貢献の一端である。このように、学生の社会貢献はグラフィックやプロダクト、実空間、そしてIT環境のデザインにおよんでいる。
 デザイン・コンペティションを勝ち抜いた成果も多く、例えば名古屋城本丸御殿の公式ポスターデザインコンテストでは、芸術工学部の学生の提案が最優秀賞を受賞して各所に掲出された。本丸御殿の復元は教員の社会貢献であるから、教員と学生のコラボレーションと捉えることも可能であろう。さらに、社会貢献は芸術工学部の枠にとどまらず、芸術工学部と経済学部の学生有志がサークルKサンクスのスイーツを共同で開発し、一部店舗で販売された(平成27年(2015)2月)。
 学生による社会貢献は、学部教育の特徴である芸術工学実習や研究室活動がもとになったものであるが、それは受動的なものだけではなく、能動的な活動によっても培われた。顕著なのは、学生有志によって企画・運営される「卓プロジェクト」と「卓展」である(図20)。
 「卓プロジェクト」とは、学生が様々なプロジェクトを自由に提案し、その提案に共感した学生が学科や学年の壁を越えてチームを構成し、作品を制作するものである。提案をする人物は「卓長」と呼ばれる。卓長のもとに集まったメンバーは同じテーブルを囲みながら、作品について検討を重ね、「卓展」で展示する。 第1回の卓展は平成18年(2006)7月15〜17日に開催され、全18プロジェクトの提案に共感した118名の学生が参加した。開催の時期や場所はもちろん、開催するか否かも学生らの判断に委ねられているが、平成18年(2006)以降途切れることなくつづき、近年は8月のオープンキャンパスに合わせて開催する傾向にある。
 芸術工学部では教員と学生の距離感の近さがしばしば指摘されるが、卓展や平成11年(1999)1月に初めて開催された「芸工祭」といった自主活動が、学科や学生の垣根を越えた関係の醸成に寄与している(図21)。さらに、平成16年(2004)11月に第1回総会を開催して発足した同窓会「萱光会」と現役学生の距離感も近く、様々な分野に飛び出した卒業生らの活躍が、直接/間接に芸術工学部に還元されている。

謝辞
 本稿執筆にあたり、大学院芸術工学研究科の教職員の方々に大変お世話になりました。特に、鈴木賢一教授と森旬子教授には貴重な資料の提供とご助言を、横山清子教授には名古屋市立女子短期大学からの流れについてご教示いただきました。また、大学院芸術工学研究科角研究室の大学院生・石橋昂大氏には資料収集と整理に協力いただきました。記して深甚なる感謝を申し上げます。

主な参考文献

  1. 名古屋市立大学芸術工学研究科『名古屋市立大学芸術工学部・芸術工学研究科創立十周年記念誌』(名古屋市立大学芸術工学研究科、2006年3月)
  2. 名古屋市立大学芸術工学部20周年記念事業実行委員会『名古屋市立大学芸術工学部20周年記念誌』(古屋市立大学芸術工学部20周年記念事業実行委員会、2016年3月)
  3. 名古屋市立女子短期大学50年誌刊行編集委員会『名古屋市立女子短期大学 50年誌』(名古屋市立女子短期大学50周年記念事業実行委員会、1996年3月)
  4. 記念誌編纂委員会『名古屋市立大学60年の歩み』(名古屋市立大学、2010年10月)
  5. 名古屋市立大学芸術工学部または名古屋市立大学大学院芸術工学研究科が編んだ『芸術工学への誘い』のうち、岐阜新聞社発行のI(1997年)〜VIII(2009年3月)、名古屋市立大学大学院芸術工学研究科編、発行の14(2010年3月)〜24(2020年3月)
  6. 石橋昂大『名古屋市立大学の土地取得とキャンパス建設の経緯』(名古屋市立大学芸術工学部卒業論文、2020年3月)

文責:角哲(かくさとる)
大学院芸術工学研究科


 

図20 平成29年(2017)卓展
図20 平成29年(2017)卓展

図21 平成30年(2018)芸工祭
図21 平成30年(2018)芸工祭