名古屋市立大学の歴史

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第Ⅴ章 市立三大学の統合と人文社会学部、芸術工学部、自然科学研究教育センターの成立

3. 芸術工学部の成立

(1)芸術工学部の設置

 平成8年(1996)4月、名古屋市立大学に芸術工学部が誕生した。芸術工学部には、視覚情報デザイン学科、生活環境デザイン学科の二学科が設置され、入学定員は、両学科とも30名であった。教員は28名、初代学部長は柳澤忠(建築学)であった。
 ここで、『人文社会学部・芸術工学部設置認可申請書』から、芸術工学部の設置の目的、人材養成の目的、教育理念などを記しておく。芸術工学部設置の目的は、デザイン、映像情報に関する研究開発、教育需要が全国的に存在する中で、名古屋圏においてデザインに関する研究開発機能を充実させることは必要なことであり、「デザイン都市宣言」を議会で議決した名古屋市としては、中部圏ではじめての芸術工学部を創設して、上記の研究開発と教育を推進することが重要になる。そのために、「芸術(アート)と工学の融合」を行なう学部を設置し、芸術(アート)と工学の両分野をふまえて、目的を具体化してデザインする「ことづくり」と、それを支える「ものづくり」にかかる研究、教育を実践するところにあるとしている。人材養成の目的としては、芸術と工学を融合させた新しいデザイン方法を確立し、新に人間性豊かな生活環境の実現に寄与し、豊かな感性と高度な科学技術に関する知識によって社会に貢献できる設計家(総合デザイナー)を育成することにあるとする。この目的を達成するため、芸術工学部には「ことづくり」を中心にする視覚情報デザイン学科と、「ものづくり」を中心にする生活環境デザイン学科の二学科を設置するとしている。
 このうち視覚情報デザイン学科では、画像、映像メディアと情報工学の先端諸技術を活用したデザインについて教育、研究し、画像、映像、CGなどの分野に加えて、現実の都市景観の分野で計画、設計などができる人材を育成するとする。
 生活環境デザイン学科では、個人的居住空間や生活の密着した公共的空間において、人間と生活環境を相互に関連させてとらえ、人にやさしく、機能的で美しい生活環境のデザインについて教育、研究し、建築、インテリア、プロダクトデザインなどの手法を用いて生活環境の計画、設計など生活環境ができる人材を育成するとする。
 教育課程としては、芸術工学の基本概念を学ぶ科目、感性のトレーニングを学ぶ科目、科学技術の基礎を学ぶ科目を共通科目群に配置し、各学科には、それぞれの学科に応じた基礎科目群、基幹科目群、展開科目群、関連科目群、実習を配置した。そのうえで、卒業制作・卒業研究が課されている。
 『名古屋市立大学 芸術工学部』(最初のパンフレット)には、「感性・技術・人間理解が芸術工学の三本柱」と題する柳澤忠学部長の文章が掲載されており、「本学芸術工学部は「ことをデザイン」する問題意識をもち、人間工学・建築学・情報工学などの【技術】をもち、美しさ快適さに敏感な【感性】をもち、何よりも【人間理解】のできる人材を養成する」ことが熱く語られている。

芸術工学部での実習の様子
芸術工学部での実習の様子

(2)大学院芸術工学研究科の設置

 平成12年(2000)4月、学部の設置に続けて大学院芸術工学研究科の修士課程を設置した。入学定員は25名である。続けて同14年(2002)4月、大学院芸術工学研究科の博士後期課程を設置した。入学定員は5名である。これにともない、修士課程を博士前期課程とした。
 博士前期課程には、〈ビジュアルデザイン工学領域〉〈地域環境計画領域〉〈生活空間設計領域〉の3つの教育領域を設定した。博士前期課程、後期課程を通じて、豊かな科学技術の知識と技術を持つ設計家、技術者、研究者を育成することを目標とした。
 芸術工学研究科では、また、人間文化研究科・システム自然科学研究科と同様に、「社会人特別選抜制」をとって社会人の学生を広く受け入れた。そのために授業科目の開講形態を「昼夜開講制」とした。これによって、社会人の学生は、夜間と土曜日に開講する授業科目を履修することによって、修了に必要な単位を修得することができるようにした。

(3)芸術工学部/芸術工学研究科の発展

 芸術工学部では、平成17年(2005)4月、学科の名称変更と学生の入学定員の増員を実施した。すなわち、「視角情報デザイン学科」を「デザイン情報学科」へ、また「生活環境デザイン学科」を「都市環境デザイン学科」へと変更し、学生の入学定員を各30名から40名へと増員した。「デザイン情報学科」では、学部共通科目を学んだ後、〈グラフィック・デザイン、コンピュータ・グラフィック・デザイン、映像・サウンドデザイン〉〈プロダクト・デザイン〉〈情報デザイン〉〈芸術デザイン〉の4つの方向のいずれかに進んで学修する。「都市環境デザイン学科」では、学部共通科目を学んだ後、〈建築〉〈アーバンデザイン〉の2つの方向のいずれかに進んで学修することとした。
 平成22年(2010)4月、このうちの「都市環境デザイン学科」を「建築都市デザイン学科」に名称変更したが、続けて平成24年4月、学科の再編と学生の入学定員の増員を実施した。すなわち、それまでの2学科体制をあらためて、「情報環境デザイン学科」(入学定員30名)、「産業イノベーションデザイン学科」(入学定員30名)、「建築都市デザイン学科」(入学定員40名)の3学科体制とし、学科増設を行なったのである。これにより入学定員は従前の計80名から100名に増員された。
 このうち「情報環境デザイン学科」は、人と情報空間をつなぐインターフェイス設計、映像・音響デザインに関する理論及び技術を学修する学科で、先端のインターフェイス機器やソフトウェア、Webアプリケーションやネットワークプログラムの設計・開発、映像制作ができる人材の育成を目標としている。「産業イノベーションデザイン学科」は、工業デザイン、グラフィックデザイン、3DCGなどに関する理論及び技術技術を学修する学科で、デザインと工学の両方の視座から新事業や新製品の企画・開発ができる人材の育成を目標としている。「建築都市デザイン学科」は、建築都市のデザインに関する理論及び技術を学修する学科で、建築設計、都市デザインの防災安全、環境保全、街並保存など建築都市のデザインができる人材の育成を目標としている。
 また、大学院博士前期課程では、平成16年(2004)4月、教育研究の領域をそれまでの3領域から、〈デザイン情報領域〉〈建築都市領域〉の2領域に再編した。前者ではデザインと情報技術を融合しうる専門家を育成し、後者では都市問題、環境問題、建築技術の課題の解決などに取り組む人材を育成することとした。さらに、学士課程の3学科再編に連関して、博士前期課程についても〈情報環境デザイン領域〉〈産業イノベーションデザイン領域〉〈建築都市デザイン領域〉の3領域に再編し、学士課程と大学院課程の直結をはかった。
 大学院課程においては、社会人特別選抜制度、昼夜開講制、長期履修制度が定着するとともに、一般学生に対しては企業や事務所に出向いて実務を経験する「学外実務プロジェクト」を、社会人学生に対しては実務経験を踏まえた事例研究・課題研究を行なう「学内実務プロジェクト」を学修させ、実務と連携した教育を実施している。また、名古屋市立大学大学院のすべての研究科で実施されているTA制度、RA(博士課程研究遂行協力)制度、学術論文投稿支援制度、国際学会参加旅費支援制度などの諸制度が発展、定着して、学生にとってより学びやすい環境が定着した。
 芸術工学研究科は、平成21年(2009)、附属研究所として「環境デザイン研究所」を設置した。これは、芸術工学研究科の教育研究横断的に充実・発展させる拠点として設立されたもので、持続可能な未来社会の実現に向けて、物理的な環境と人間の生活・活動の関係性に軸足を置いたデザインのあり方を追求する研究所として活動している。

図7
芸術工学棟アトリウム

参考文献
『名古屋市立大学人文社会学部・芸術工学部設置認可申請書』1995年
『名古屋市立大学 芸術工学部』(パンフレット)1996年
『名古屋市立大学 芸術工学部 芸術工学研究科』(パンフレット)2007年