名古屋市立大学の歴史

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第Ⅴ章 市立三大学の統合と人文社会学部、芸術工学部、自然科学研究教育センターの成立

2. 人文社会学部の成立

(1)人文社会学部の設置

 平成8年(1996)4月、名古屋市立大学に人文社会学部が誕生した。人文社会学部には、人間科学科、現代社会学科、国際文化学科の三学科が設置され、入学定員は、それぞれ一学年50名、50名、55名(うち5名は私費外国人留学生・帰国子女学生)で、これに加えて第三年次編入学生が一学年に人間科学科10名、現代社会学科10名とされた。教員は三学科それぞれ20名(うち助手1名)、14名、19名で、初代学部長は城戸毅(西洋史)であった。
 今、『人文社会学部・芸術工学部設置認可申請書』から、人文社会学部の設置の目的、人材養成の目的、教育理念などを記しておく。人文社会学部設置の目的は、一つは社会の進展に応じた人材の養成で、新しい時代に対応した豊かで人間らしい生き方を探求するため、現代の人間に関わる諸問題を科学的・総合的に分析して解決する人材を養成することであった。もう一つは地域の要請に対応した教育研究の推進で、名古屋市を理工系の人材のみならず、文理両方の人材を有する町にしたいとの要請に応えるものであるという。この目的を達成するため、人文社会学部は「豊かで人間らしい生き方(ウェルビーイング)」を学部の理念に掲げ、「人間」「社会」「文化」をキーワードに三つの分野の学科を編成した。
 三学科のうち人間科学科では、心身相関に関わる課題、学習と形成にかかわる課題、社会と人間関係に関わる課題について考察し、人間の心理、身体、発達、教育、人間関係、社会福祉などについて教育、研究を行なうとした。現代社会学科では、社会学を中核に隣接の社会科学諸領域を合わせ学んで、現代社会のかかえる諸問題を多角的・複合的に理解、処方する教育、研究を行なうとした。国際文化学科では、言語コミュニケーション能力、異文化コミュニケーション能力を涵養し、国際日本文化と欧米文化の二つを基軸として「国際性」に関わる課題について教育、研究を行なうとした。こうして三つの学科が人間、社会、文化のそれぞれの分野で新しい時代に即した人材を養成する学部として人文社会学部は誕生した。
 教育課程の特色としては、専門性と学際性の併修、地域と連携した教育、少人数教育の重視、実習とフィールドワークの重視があげられる。人文社会学部では、一つの専門分野を深く学ぶと同時に、隣接分野、関連分野に広がる領域をあわせ学ぶことによって、一つの研究課題をめぐって学際的に考察する学習プログラムが作られた。現代の社会的課題を解決するには、一分野の専門的知見を深堀りすることとあわせて、多面的な視点と応用力が必要になるとの考えから構築された教育課程であった。また、地域連携教育を推進し、実習、調査などでは実際に街に出て市民と連携しながら学習を進めることを重視した。さらに少人数教育の重視という観点から、特に外国語科目、演習科目において少人数のクラス、ゼミを編成して双方向的な教育を行なうプログラムが作られた。同時に様々な実習科目、フィールドワーク科目においても、社会、市民と連携しながら少人数を単位とする教育を行なう教育プログラムが構築された。


人文社会学部の講義の様子
人文社会学部の講義の様子

 なお、保育短大で長く実施されてきた保育士養成課程は人間科学科に引き継がれ、再設置がなされた(ただし、初等教育課程は継承されず、廃止となった)。また、人間科学科と現代社会学科には第三年次編入学制度が設置され(入学定員は各10名の計20名)、短期大学卒業者や四年制大学の進路変更希望者を受け入れるとともに、現代社会学科では社会人の第三年次編入学制度を設けて、社会人編入生に対する教育が行なわれるようになった。さらに、国際文化学科には2名の外国人教師(仏、独、ともに日本学専攻)が配置され、国際日本学研究が行なわれるとともに外国語教育が実施された。

(2)大学院人間文化研究科の設置

 平成12年(2000)4月、学部の設置に続けて大学院人間文化研究科の修士課程を設置した。入学定員は15名である。続けて同14年(2002)4月、大学院人間文化研究科の博士後期課程を設置した。入学定員は5名である。これにともない、修士課程を博士前期課程とした。
 人間文化研究科の特色は、一つは博士前期課程において課題研究科目方式を採用したことである。これは複数の教員と複数の学生が共同で研究を進めるもので、発表と討論を通じて研究を深化、進展させる方式である。学生は、この方式を通じて複数の教員から指導を受けることができるようにした。設置された課題研究科目は、「ヨーロッパの思想に関する研究」「欧米の文化に関する研究」「日本の文化に関する研究」「多文化共生に関する研究」「地域と経済に関する研究」「経営と労働に関する研究」「ジェンダー・人権・福祉に関する研究」「心身の発達に関する研究」の8つであった。
 もう一つは、「社会人特別選抜制」をとって社会人の学生を広く受け入れたことである。そのために授業科目の開講形態を「昼夜開講制」とした。これによって、社会人の学生は、夜間(18:00~21:10)と土曜日に開講する授業科目を履修することによって、修了に必要な単位を修得することができるようにした。

(3)人文社会学部/人間文化研究科の発展

 人文社会学部/人間文化研究科では、平成14年(2002)4月、名古屋市立大学全学の大学院重点化にともない、大学院人間文化研究科を部局化し、教員は大学院人間文化研究科の所属となった。
 平成17年(2005)4月、人間文化研究科に附属研究所として人間文化研究所を設置した。これは、教育研究の充実と地域社会への貢献を目的として設立したもので、「人間・地域・共生」をキーワードに学際的な研究を推進し、毎年複数のプロジェクト研究を実施している。以後、ここが人間文化研究科の共同研究や研究発信の拠点となり、また地域・市民との連携の拠点となっていった。機関誌『人間文化研究所年報』を刊行している。
 資格課程については、学部設置時からの保育士資格に加えて、幼稚園教諭一種免許状、社会調査士、中学校教諭一種免許状(英語)、高等学校教諭一種免許状(英語)、中学校教諭一種免許状(社会)、高等学校教諭一種免許状(地理歴史・公民)、社会福祉士国家試験受験資格、認定心理士、公認心理師試験受験資格、スクール(学校)ソーシャルワーク教育課程が順次設置されていった。
 さらに、平成19年(2007)9月、「市民学びの会」が立ち上がった。この会は、人文社会学部/人間文化研究科に連携する市民たちの会で、大学院人間文化研究科の修了生有志や公開講座などで人間文化研究科の催しに参加した市民たちによって構成されている。人間文化研究科の応援団として、またともに学ぶ市民たちの集いとして活動している。
 学部学科の編成と理念については、平成25年(2013)4月、学科再編を行なって「人間科学科」を「心理教育学科」に改めた。あわせて、教員の配置を変更して学科の教育課程を充実させ、学生の入学定員の増員を行なった。これにより、人文社会学部は、心理教育学科(入学定員60名)、現代社会学科(入学定員70名)、国際文化学科(入学定員70名)の三学科編成となり、学生定員は計200名(うち6名は第三年次編入学生)となった。
 また、学部、研究科の理念として、学部設置以来の「豊かで人間らしい生き方(well-being)」に加えて「ESD」(持続可能な開発のための教育〈Education for Sustainable Development〉)を前面に掲げ、「豊かで人間らしい生き方のための持続可能な地域社会と地球社会をつくる教育」を教育研究の目的とした。これは人文社会学部/人間文化研究科の教育研究の目的の中核となって今日に至っている。
 大学院人間文化研究科では、平成14年(2002)、幼稚園教諭専修免許状の資格課程を設置した。また、同18年(2006)、中学校教諭専修免許状(英語、社会)、高等学校教諭専修免許状(英語、地理歴史、公民)の資格課程を設置した。さらに、平成29年(2017)、臨床心理コース(入学定員10名)を設置し、臨床心理師の養成を開始した。この間、社会人特別選抜制度、昼夜開講制、長期履修制度が定着し、名古屋市立大学大学院のすべての研究科で実施されているTA制度、RA(博士課程研究遂行協力)制度、学術論文投稿支援制度、国際学会参加旅費支援制度などの諸制度が発展、定着して、学生にとってより学びやすい環境が定着した。

参考文献
名古屋市立女子短期大学50年誌刊行編集委員会編『名古屋市立女子短期大学50年誌』1996年
五十年史編集委員会編『名古屋市立保育短期大学五十年史』1997年
『名古屋市立大学人文社会学部・芸術工学部設置認可申請書』1995年
名古屋市立大学教養部『教養部のあゆみ』1996年
名古屋市立大学人文社会学部『名古屋市立大学人文社会学部創立20周年記念誌』2015年