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コラム

大学史の重要資料

吉田 一彦
人間文化研究科教授
吉田 一彦

吉田 一彦

 名古屋市立大学の70年史を編纂するにあたり、私たち編纂担当者は、卒業生、修了生、教員をはじめ多くの方々に資料となるものの寄贈や貸与を求め、インタビュー調査や座談会を実施し、また学内の資料を探索、調査した。その中で一群の重要な資料に出会うことができた。それは、名古屋市立大学桜山(川澄)キャンパスの4階ホールの奥の倉庫にひっそりと保管されていた。分量は段ボール箱で100箱余り。中身は戦前のものを含む大学草創期の公文書をはじめとして、市役所や学内の決済文書など大学の歴史に関する貴重な文書・記録類であった。まだ、その全貌をつかめていないが、今後詳細に調査すべきものと考えている。これらの資料は、法人化にあたって名古屋市役所から名古屋市立大学に移管されたもので、それが倉庫に搬入されて眠っていた。
 この資料は、箱ごとに大きく分けて4類に分類されるようである。第1類は、名古屋市立大学の草創期の資料群で、医学部の前身校である名古屋市立女子高等医学専門学校や名古屋女子医科大学に関する資料、薬学部の前身校である名古屋薬学専門学校の名古屋市移管に関する資料、名古屋市立大学の設置に関する資料、経済学部の設置に関する資料、名古屋大学との校地・校舎の「交換」に関する資料などを含んでいる。その中には綴の表紙に「健民局」「厚生局」「名古屋市」と書かれたものがあって、名古屋市役所の資料であることが明記され、また「永年保存」「非常持出」と書かれたものがあって、重要書類とされてきたものであることが知られる。段ボール箱で8箱分が該当すると思われる。第2類は、名古屋市立女子短期大学およびその前身の名古屋市立女子専門学校に関する資料で、38箱分が該当すると思われる。これは段ボール箱の前面に名古屋市立女子短期大学のものであることを示す表示紙が貼付されている。第3類は名古屋市立保育短期大学およびその前身の名古屋市立保育専門学園に関する資料で、23箱分が該当するものと思われる。こちらも段ボール箱の前面に名古屋市立保育短期大学のものであることを示す表示紙が貼付されている。第4類は、それ以後の名古屋市立大学関係資料で、段ボール箱にして30余箱が該当すると思われる。
 令和2年(2020)になってからこれら一群の資料を再発見した私は、浅岡悦子(人間文化研究科研究員、非常勤講師)、手嶋大侑(同)とともに何回かの調査を行なった。そして、それまで計画していた大学史資料館の展示内容を変更して、特に注目されるものについては複製(レプリカ)を作成して展示することにした。また、『名古屋市立大学70年史』の「名古屋市立大学の歴史」(吉田・浅岡・手嶋執筆)を、これらの資料を活用して叙述した。そこでは、これらの資料を「名古屋市立大学および前身校関係史料」と呼んでいる。
 ただ、資料の中には経年変化による劣化が見られるものが含まれており、さらなる劣化の進展が懸念される。幸い、総合情報センターの図書館山の畑分館に資料管理設備を有した書架を設置して、そちらで保存する計画が決まった。今後は、「永年保存」にふさわしい保管をするとともに、一点一点の内容を精査してリスト化した上で展示に活用する作業を進める必要があると思われる。

人間文化研究科教授 副学長(大学史編纂・資料室)
吉田 一彦