見る・聞く・知る 名市大

在学生の声

臨床の現場と、最先端の基礎研究を自由な発想で結びつける人になる。

自由が導いた出会い

高校と違い、大学は自由だとよく言われる。同時に自由に対する責任もより問われることにはなるが、考え方や活動の範囲が広がることは確かだろう。

「では、そんな大学で、どこまで自由な行動が許されるのだろう……」

薬学部5年生 小林里帆さん

名市大薬学部薬学科に入学したばかりの小林里帆さんが感じたのは、そんな疑問だった。高校時代に「研究者になりたい」と考えていた小林さんだけに、疑問を感じたら何事も解明しないと気が済まない。さっそく自ら実験してみることにした。

「掲示板で学会の告知を見つけた時のことです。研究者が研究成果を発表する場である学会に1年生でも入れるのかなと思い、参加してみました。その後も掲示板で告知を見つけては何かの役に立つに違いないと思い学会に参加しました。」

自然科学分野を学ぶ全国の大学生などが自主研究の成果を発表し、競い合う場である文部科学省主催の「サイエンス・インカレ」というコンテストの存在を知ったのもその頃だった。興味を持った彼女は、実際に遠方の会場まで見に行った。

「会場では、私と同年代の学生が堂々と研究発表をしていました。それを見て、『いつか私も出よう!』と思ったことを覚えています」

また理化学研究所などが実施する大学生のためのインターンシップに興味を持ち、すぐに参加申し込みをしたこともある。何か面白そうなものを見つけるたび、彼女は躊躇することなく飛び込んだ。

薬学部5年生 小林里帆さん

こうして体当たりでドアを開けながら、名市大での自分の居場所を見つけてきた小林さん。そんな彼女の名市大での人生を大きく変えたのが、粂(くめ)和彦先生との出会いだった。1年次に受けた粂先生の授業の面白さに感動した彼女は、授業が終わるとさっそく先生を追いかけ、唐突にこう切り出した。

「私は将来、研究者になりたいんです。どうすれば研究者になれるか教えてください!」

すると粂先生は、彼女に3つのアドバイスをした。

「まず英語の勉強をすること、国際的な総合科学ジャーナル『Nature』などのトップレベルの論文をたくさん読むこと、そして、実際に実験をどんどんやって技術力を高めること」

以来、彼女は素直にその教えに従った。そして基礎研究を学ぶため、週に一度は粂先生の研究室を訪ねて教えを請うた。研究室のメンバーとも仲良くなり、彼女にとってはまるでサークル活動のような気分だったという。

「先生の研究分野は脳内の神経物質。たとえば人間が怒った時、脳内でどんな変化が起きているかを薬理学的に解明するという研究です。まさに私が憧れていた、薬学と心理学のどちらにも密接に関連するテーマでした」

2年生になると、4年次に研究室選びの参考にするために希望者は「研究室での研究体験」に参加できる。彼女は迷うことなく粂研究室を選んだ。

「先生から『僕のメインテーマは睡眠だから、睡眠に関することを自由に研究していいよ』と言われ、以前から興味を持っていた依存症と睡眠について研究させてもらいました」

さらなる高みに続くドア

名市大で学び自分で自由にドアを開け続けた結果、彼女は、周囲の人からもっと大きなチャンスをいただけることを身にしみて感じることになる。

薬学部5年生 小林里帆さん

2年次の後期、彼女が開けたドアは、彼女を思いがけない場所へと導いた。粂研究室に所属する大澤匡弘准教授の知人との懇親会があり、たまたま彼女に声がかかった。参加メンバーを聞くと、彼女はふたつ返事で「絶対に行きます!」と答えていた。

「その会には、私が高校の頃から憧れていた池谷(いけがや)裕二先生が参加されるという話でした」

池谷先生は東京大学・大学院教授で、日本を代表する脳科学者の一人。著書をすべて読んだという彼女は、懇親会の席でちゃっかり隣の席を確保し、至福の時間を過ごした。

これが縁となり、3年次に名市大に通いながら夏休みを含む約3カ月間、彼女は東京大学の研究室に行き、池谷先生と大澤先生の共同研究の手伝いをした。

「トップクラスの研究者たちの中で実験ができたことは、すごく刺激になりました」

その時、彼女の実験の指導をしたのが、東大大学院で博士号を取得し、現在はドイツに留学中の乘本(のりもと)裕明博士。実は乘本博士、名市大の卒業生でもある。大学の先輩ということで、時間を割いて彼女につきっきりで指導をしてくれた。

「こんなすごい先輩に指導していただけて本当に光栄でした。また一人、私のロールモデルが増えました」

薬学部5年生 小林里帆さん

後日、この実験をまとめた「糖尿病モデルマウスにおける記憶障害のメカニズム」を、彼女は2016年の「第5回サイエンス・インカレ」に応募。ついに1年次に憧れた舞台に立つこととなった。しかもこの研究で、彼女は見事にポスター発表部門(卒業研究に関連しない研究)で「科学技術振興機構理事長賞」を受賞した。

「そのご褒美に、受賞者でアメリカ研修旅行に行かせてもらいました。ハーバード大やMITなど、世界最高の研究機関を見せていただきましたし、同時に受賞した多くの大学生・大学院生とも仲良くなることができ、とても有意義なアメリカ研修旅行でした」

また一つ、ドアが開いた瞬間である。

薬学科は4年生になると研究室に配属される。彼女は当然のように粂研究室を選んだ。

現在、彼女は「Sik3」という遺伝子を研究している。これは哺乳類から昆虫までが保有する遺伝子で、睡眠を制御する働きを持つことが分かっている。名市大の粂研究室と、筑波大学らの共同研究で発見され、2017年の11月に科学誌「Nature」に発表された。

「人間に限らず、動物は必ず眠ります。でも、その眠りという現象の全貌はまだ解明されていません。しかし「Sik3」の研究によって、その謎に少しでも近づけるかも知れません。睡眠は、本当に面白いテーマだと思います」

臨床と基礎研究をつなぐ人

多くの人と出会い、研究者としてのステップアップを続ける小林さん。その一方で、薬学部を選んだ彼女は、将来、薬剤師となって地域医療に貢献するという目標も失ってはいない。

薬学部5年生 小林里帆さん

「『なごやかモデル』の授業で、2年次は医療系のさまざまな職種の方たちの話を聞き、3年次の訪問実習で名古屋市緑区の鳴子(なるこ)地区に行き、そこで暮らす高齢者の方から聞き取り調査を行いました」

「なごやかモデル」とは、名市大と名古屋学院大学および名古屋工業大学の3大学と鳴子地区の住民とが協働し、人々が健康で暮らせるコミュニティづくりをめざす実践型の研修。活動自体は毎年行われているが、彼女は基礎研究に注力するため、4年次は敢えて履修しなかった。しかし粂先生と一緒に名古屋市立大学病院の睡眠医療センターで行われるカンファレンスに毎月参加していくなかで、考えが変わった。

「多くの患者さんが睡眠で困っておられるという実態をカンファレンスで知り、睡眠の基礎研究者として、自分はその方たちにもっとできることがあると思ったんです」

そこで小林さんは、5年生になって改めてなごやかモデルの授業を履修しようと決めた。

「もう一つ、粂先生から『基礎研究も臨床も、どちらも大切です』と言われたこともきっかけでした。実際に、睡眠で困っている患者さんの言葉が基礎研究のヒントになることもありますし、逆に基礎研究の視点で患者さんにアドバイスできることもありますから」

薬学部の5年生で行った薬局や病院での実習のこうした経験も、彼女が成長するための大きな糧となった。さらに、彼女は「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」(注1)の代表にも選出され、6年生ではドイツへの留学も予定している。

薬学部5年生 小林里帆さん

「目の前で困っている患者さんと向き合う『臨床』と、まだ誰も解明できていない最先端の『基礎研究』。一見すると無関係に思える二つの領域を、自由な発想で結びつけることが、これからの私の課題だと思っています」

そのためにも、今は寝る間も惜しんで睡眠のことを考えているという小林さん。新しい視点や実験方法を思いつくとすぐに論文を検索し、過去に同じ研究が行われてないかチェックする。

「最近では毎日新しい論文を調べています」

将来は薬剤師として臨床の現場に進むか、大学院で睡眠の研究を続けるか、あるいは若いうちに海外で研究留学をするか、現時点ではまだ答えは出せていない。しかしどの道を選んだとしても、名市大で学んだことを軸に、自分で考えてドアを開き続けている限り、彼女はさまざまな人に出会い、成長していくに違いない。

※(注1)「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」とは、文部科学省の官民協働海外留学支援制度で、小林さんは「理系、複合・融合系人材コース(未来テクノロジー人材枠)」の第8期派遣留学生に応募しました。

プロフィール

薬学部5年生 小林里帆さん

小林 里帆(こばやし りほ)さん
薬学部薬学科5年

子どもの頃から、勉強によって新しい知識が増えることが楽しかったという小林さん。中学生の時、iPS細胞を発見した山中伸弥先生を見て、「自分の好きなことをとことん勉強できるって素晴らしい!」と思い、将来は研究者になろうと決めた。特に興味があったのは人間の「心」がどこから来るかという問題。しかし名市大薬学部でのさまざまな出会いによって、彼女は自分が生涯かけて追い求めるべきテーマを見つけた。

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