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ヒト腎細胞「3D-RPTEC®」を用いたプベルル酸毒性評価の論文が英文学術誌に掲載


日機装株式会社(以下、「日機装」)および名古屋市立大学は、プベルル酸腎毒性評価に関する研究成果の論文が、「Biological and Pharmaceutical Bulletin」48巻6号に掲載されたことをお知らせいたします。本研究および論文執筆にあたっては、日機装および名古屋市立大学 荒川大教授が中心となり、金沢大学 後藤(中川)享子教授、東京大学 楠原洋之教授らも共著者として参画しました。
今回の論文では、腎臓の機能を再現した創薬研究用ヒト腎細胞3D-RPTEC®にプベルル酸溶液を7日間曝露した結果、ミトコンドリアの機能障害や細胞のエネルギー源となる化合物(ATP:アデノシン3リン酸)の減少が確認され、一定濃度以上のプベルル酸がヒト近位尿細管上皮細胞に毒性を発現させることを示しています。なお、「Biological and Pharmaceutical Bulletin」は、日本薬学会が発行する英文学術誌で、医薬分野における著名な学術誌の一つです。

論文の概要

紅麹関連食品の摂取による腎障害が報告されており、その原因物質の一つとして「プベルル酸」が確認されました。これまで、同物質の腎毒性は動物実験で示されていましたが、ヒト腎細胞を用いた毒性評価の報告はありませんでした。
そこで荒川教授および日機装の研究グループでは、3D-RPTEC®(三次元培養したヒト近位尿細管上皮細胞)を用いて、プベルル酸の毒性評価を行いました。その結果、プベルル酸はミトコンドリア機能を著しく低下させ、細胞内ATP量も時間依存的に減少することが明らかとなりました。なお、7日間の曝露期間後、細胞内ATP量を指標としたEC50(注1)の値は24.7 µmol/Lです。
さらに、有機アニオントランスポーター(OAT)(注2)の阻害剤であるプロベネシドにより、この毒性の一部が軽減されたことから、プベルル酸がOATを介して取り込まれることが示唆されました。
「Evaluation of Puberulic Acid-Induced Nephrotoxicity Using 3D-RPTEC」
(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/48/6/48_b24-00654/_article/-char/ja

論文公表の背景

プベルル酸は、アオカビから産生される天然化合物で、紅麹関連食品における健康被害の原因のひとつとして確認された化学物質です。2024年に荒川教授および日機装の研究グループ(注3)は、3D-RPTEC®を用いた評価方法により、初めてヒト腎細胞でプベルル酸の腎毒性を確認しました。今回掲載される論文は、プベルル酸の腎毒性検証における具体的な評価方法およびその結果を公表するものです。
<荒川教授コメント>
化学物質はこれまで実験動物を用いて安全性評価が行われていますが、動物愛護に加えヒト特異的な毒性を実験動物では評価できない限界があり、ヒト細胞を用いた動物代替法の開発が期待されています。本成果はヒトで生じたカビ毒による細胞毒性を3D-RPTEC®を用いて評価できることを示しており、今後本評価系を活用することで化学物質誘発性の腎障害評価の評価手法を開発したり、背景となる腎障害メカニズムの解明、さらには腎臓の治療に役立てるなど幅広い活用が期待できると考えています。
【3D-RPTEC®について】
3D-RPTEC®とは、ヒト初代近位尿細管上皮細胞(RPTEC; Renal Proximal Tubule Epithelial Cells)を3次元で培養することでヒト腎皮質に近い薬物トランスポーターを発現する研究用の細胞です。
従来、細胞を用いた毒性評価や薬理評価では、腎臓の株化細胞や初代細胞が使用されてきましたが、薬物に対する応答性は十分ではありませんでした。「3D-RPTEC®」は、従来の腎細胞よりも薬物の応答性が向上し、より感度の高い評価が可能です。

3D-RPTEC

今後の展望

食品や薬品の安全性が注目される中、本研究では、ヒトの細胞でプベルル酸の腎毒性を明らかにする重要な知見を得ることができました。日機装は、ヒト腎細胞を用いたより実用的かつ効果的な安全性評価系の開発に取り組んでおり、現在3D-RPTEC®による毒性評価手法のグローバルな標準化を目指してバリデーション活動を進めています。
荒川教授および日機装の研究グループは、今後も共同でさらなる研究を進め、細胞実験による適切で効率的な化合物の評価方法の確立を通じて、動物実験から細胞実験への移行促進や効率的な創薬研究に貢献していきます。

論文掲載情報

雑誌名:Biological and Pharmaceutical Bulletin
論文名:Evaluation of Puberulic Acid-Induced Nephrotoxicity Using 3D-RPTEC
著書名:Hanwei Peng1, Etsushi Takahashi2, Tomohiro Murakami3, Yohei Saito3, Kento Kamezaki4, Ayari Watanabe4, Hiroyuki Kusuhara4, Kyoko Nakagawa-Goto3,5,6, Yoichi Jimbo2, Hiroshi Arakawa1,7,*
1 Faculty of Pharmaceutical Sciences, Institute of Medical Pharmaceutical and Health Sciences, Kanazawa University, Kakuma-machi, Kanazawa, Ishikawa 920-1192, Japan
2 R&D Department, Precision Engineering Center, Industrial Division, Nikkiso Co., Ltd. 3-1 Hokuyodai, Kanazawa, Ishikawa 920-0177, Japan
3 School of Pharmaceutical Sciences, College of Medical, Pharmaceutical and Health Sciences, Kanazawa University, Kakuma-machi, Kanazawa, Ishikawa 920-1192, Japan
4 Laboratory of Molecular Pharmacokinetics, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, The University of Tokyo, Tokyo 113-0033, Japan.
5 WPI Nano Life Science Institute, Kanazawa University, Kanazawa, Ishikawa 920-1192, Japan
6 UNC Eshelman School of Pharmacy, University of North Carolina, Chapel Hill, North Carolina 27599-7568, United States
7 Department of Regulatory Science, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Nagoya City University, Nagoya 467-8603, Japan
* Corresponding author:
Hiroshi Arakawa: Department of Regulatory Science, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Nagoya City University, Nagoya 467-8603, Japan

掲載日:2025年6月27日
掲載URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/48/6/48_b24-00654/_article/-char/ja

注1:EC50は、薬物や化合物が最大効果の50%を示すのに必要な濃度を表す指標で、効果の強さや効力を評価する際に用いられる。本論文内では、7日間で細胞内ATP量を50%低下させる濃度としている。
注2:薬物トランスポーターの一種。薬物トランスポーターとは、医薬品を含む内因性/外因性低分⼦物質を細胞内に取り込む、あるいは細胞外へ排出させる装置の役割を持つ、細胞膜に存在するタンパク質。腎細胞には、薬物輸送に関わる多数のトランスポーターの存在が知られている。
注3:2024年当時、荒川教授は金沢大学に所属。