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山本ゼミ2025(教育チーム)~母語教育に関する活動について


人文社会学部国際文化学科 山本明代ゼミでは、学生自身が興味や問題意識をもったテーマに基づきいくつかのチームに分かれ、2年生後期から3年生へとゼミ活動を進めていきます。
今回は、外国にルーツを持つ子どもの為の「母語教育」に着目し、アンケートや座談会の実施、報告書の作成、そしてそれらを踏まえた母語教育についての提言を愛知県国際交流協会で行った「教育チーム」の活動をご報告します。

【教育チーム】メンバー
人文社会学部 国際文化学科3年
(写真左から)今光桜子、ウ・ハクブン、梶田はるな、椎名萌枝、中野実音、西岡幸恵、藤田亜海、細貝慧(敬称略)

財団法人 愛知県国際交流協会を訪問した際に撮影【教育チーム】メンバー:(左から)人文社会学部 国際文化学科3年 今光桜子、ウ・ハクブン、梶田はるな、椎名萌枝、中野実音、西岡幸恵、藤田亜海、細貝慧(敬称略)

財団法人 愛知県国際交流協会を訪問した際に撮影

「母語教育」をテーマに選んだ理由

私たちは2年次ゼミの文献講読で、日本の移民政策の現状を学びました。また、愛知県国際交流協会と名古屋国際センターを訪問しお話を伺った際、「日本語教育支援は充実している一方で、母語教育に関する支援や制度が不足している」ということがわかりました。そこで、私たちは「母語教育」というテーマに着目し、研究調査を行うこととしました。

母語教育に関するセミナー室での話し合い

母語教育に関するセミナー室での話し合い

「母語教育」とは何か

母語教育とは、親の話す言語(母語)を子どもに教える教育を指します。言語面はもちろん、親が身につけている母国の文化や価値観を習得することで、子どものアイデンティティ形成や親子間のコミュニケーションを円滑にする効果が期待されます。日本社会で生きていくためには日本語学習が必要ですが、外国人住民にとって母語の学習は自身のルーツを正しく理解し、それぞれの人生をより豊かにするために極めて重要な学びであると言えます。

母語教室で使用される教材(ベトナム語母語教室にて撮影)

母語教室で使用される教材(ベトナム語母語教室にて撮影)

現状と課題を知るために~文献調査・アンケート・インタビュー調査を実施

日本と海外の文献調査
文化庁や文部科学省の報告書の他、カナダやオーストラリアの母語教育に関する書籍や資料を調査
※参考文献をPDF報告書末尾に記載
  • 諸外国にも共通する問題点として、母語が社会的にマイナスのイメージで捉えられる傾向がある。
  • 子どもたちが母語使用や学習に抵抗を感じたり、学習意欲を持ちにくくなるケースが見られる。
  • 多くの国で課外学習の扱いであるため負担が大きく、成績に反映されないことにより学習意欲が保ちにくい。
  • 母語教育は文化的背景の理解やアイデンティティ形成、家庭内コミュニケーションの向上、多言語能力の育成に寄与。個人の成長と多文化共生社会の実現に重要な役割を果たす。 など
地域日本語教室に通う子どもたち等にアンケート調査
  • 2025年6月〜7月、日本語・中国語・繁体字中国語・英語・ベトナム語の5言語で実施
  • 小学生未満から高校生以上までの31名が回答
  • 多くの子どもが母語を話すことを重要であると考えているが、学べる場が少ない。
  • 仕事と子育てで忙しい親の多くは、自宅で母語を教える時間を十分に確保できていない。
  • 「近くに母語教室があれば通いたい」という声も多く寄せられた。
※以下のグラフはPDF報告書より抜粋

家族と話すときに使う言語

家族と話すときに使う言語

話すときに言語が混ざるか(例:日本語とベトナム語が混ざる)

話すときに言語が混ざるか

母語教室運営者や専門家へのインタビュー調査

ベトナム語母語教室主催者へのインタビュー

ベトナム語母語教室主催者へのインタビュー

母語教室運営者からは「多くの子どもが自分のルーツに自信を持てず悩んでいる」「教室では仲間との交流を通して誇りを育んでほしい」といった声を、またCLD児(外国にルーツを持つ子ども)研究者からは、母語教室の認知向上や教室間をつなぐ役割など、大学生が担える支援について提案を受けた。

座談会の開催とCLD児研究者へのインタビュー

これまでの調査結果を踏まえ、私たちはベトナム語母語教室や日本語教室の関係者を招いた座談会を開催しました。
また、座談会に参加できなかったCLD児研究者兼日本語教室の運営者にも、後日、個別インタビューを行い、より広い視点からの示唆を得ることができました。
母語教室と日本語教室の関係者を招いた座談会
2025年9月2日開催
出席者:ベトナム語母語教室・日本語教室関係者各3名・ゼミ生4名
<3つの課題の共有>
  • 場所(利用制限や費用負担、安定的な教室の確保)
  • 財政(費用の不足分を運営者やボランティアが自己負担。支援制度がない)
  • ボランティア(継続的な担い手の確保、効果的な募集方法)

<解決法について意見交換>
場所やボランティア募集については具体策を共有できたが、母語教育に対する財政的支援制度は現時点で確認できなかった。
CLD児研究者へのインタビュー
インタビューでは、次のような指摘があった。
  • 母語が不十分だと親子間のコミュニケーションが阻害される等、様々な問題が生じる。
  • 母語教育は子どもの拠り所となる重要なものである。
  • 教室のボランティア確保と運営には「人とのつながり」が不可欠である。
  • 名古屋市周辺では母語教育への理解が十分に広まっていない。
  • 母語教室は子どもに安心できる居場所を提供し、友人関係の形成や日本社会への適応を支える相互支援の場として機能
  • 母語を共有する外国人コミュニティのネットワークが共生を支える社会資源ともなる。
など

「母語教育に関する報告書」作成

私たちは、2年次後期から取り組んできた「母語教育」についての活動の総括として「母語教育に関する報告書」をまとめました。この中で、今後の支援の方向性について学生、行政・制度、教室運営者という3 つの視点から支援のあり方を具体的に整理しました。
※報告書は以下からダウンロードできます。

母語教育に関する報告書

母語教育に関する報告書

愛知県国際交流協会への提案

2025年10月30日(木)には愛知県国際交流協会を訪問し、大学生の視点から今後の母語教育事業のあり方と母語教育支援について提案を行いました。その提案とは、現在、充分な支援が行われていない母語教室に対して、教室運営者・行政・大学生が連携して運営することによって問題解決を図る可能性があるというものです。この意見は愛知県国際交流協会の担当者の方々とも共有することができました。

愛知県国際交流協会での発表の様子

愛知県国際交流協会での発表の様子

これまでの活動を通して、母語教室の主な課題として挙げられた場所や財政面は、行政による制度的支援が不可欠である一方、ボランティア確保については学生の関与によって改善を図る可能性が見えました。学生として制度を変える力は小さいかもしれませんが、現場の声を発信し、小さな行動から支援の輪を広げていくことはできます。今後も母語教育の価値を社会に伝えながら、地域全体で母語教育を支える仕組みづくりと多文化共生社会の実現を目指していくつもりです。