見る・聞く・知る 名市大

卒業生の声

「和」を大切にする環境で「人」と関わる医師をめざす。

医師の理想を追い続ける

加藤亜紀さん

1995年。医学部の和田義郎教授(当時・後に学長)は、臨床医学の最初の講義で学生にこう言った。

「医師とは"Learned Profession"(知的職業)です。だから誇りを持って仕事をしなさい。そしてたゆまぬ努力をしなさい」。

当時、医学部の4年生になったばかりの加藤亜紀さんは、その言葉を今もしっかりと覚えている。

また戸苅創教授(現・学長)の授業で行われた、胎盤が着いたままの羊の赤ちゃんが人工羊水の中で呼吸ができるかという『第一呼吸』の実験も印象的だった。

他にも多くの個性的な先生の授業を受け、彼女はとても大切なことを学んだという。

「国家試験をめざすだけが医師の勉強ではなく、医師としての高い理想を掲げ、それを追い続ける姿勢が大切だということ。そして名市大は、そんな医師をいつまでも支援し続けること。言い方は違っても、先生方はそれを私たちに伝えたかったのだと思います」。

以来、彼女は自分にとって理想の医師とは何かを探し続けてきた。

和を大切にする医学部

眼科学教室のみなさんと

本学の医学部を、加藤さんは「和の雰囲気にあふれていた」と表現する。

「他人を押しのけてまで上に行きたがる人はいませんでしたし、頑張っている人がいたらみんなで応援する気風がありました。私はそんな環境が大好きでした。そして、そんな環境だから成長できたと思います」。

自分が進む教室を選ぶために、すべての科に実習に行った時のこと。教室側としては、実習生には自分の科を選んでほしいと思うのは当然だ。しかしどの科に行っても、彼女が何をしたいのかを親身になって聞いてくれて、最後には「やりたいことをするのが一番」とアドバイスしてくれたという。

医学部を卒業後、彼女は名古屋市立大学病院の眼科に進んだ。

「眼は小さな臓器ですが、人は情報の8割を眼から得るといわれるほど重要な器官。また、手先が器用で、細かいことが好きな自分に合っていると思い、眼科を選びました」。

その後、彼女は常滑市民病院と東海産業医療団中央病院(現東海市民病院)でプライマリーケアを経験し、本学の大学院に進学。そして大学院時代に結婚と出産を経験し、「眼科専門医」も取得した。

ロンドン大学の眼科研究所にて

「ここまでは、臨床医としてはごく一般的な経歴だと思います」。

しかしご主人のイギリス留学に伴い、彼女は大学院修了と同時に渡英した。4年後、帰国する時に彼女は迷った。

彼女は、ロンドン大学で研究と、臨床の見学を経験している。しかし臨床からは長く遠ざかっているため、出産と海外生活による長いブランクを取り戻すのは容易ではない。

「常勤医として復帰することを諦めようかと思ったこともありました」。

そんな彼女を優しく迎え入れてくれたのが名古屋市立大学であった。

「お世話になった教授から誘っていただき、また、多くの先生や同期たちからも大丈夫と言われ、常勤で復帰する決意ができました」。

人と関わる医師になる

大学に戻った彼女は、小椋祐一郎教授の研究室で「加齢黄斑変性」の研究をすると同時に、名市大病院をはじめとする複数の眼科で、臨床医として忙しい毎日を送っている。

「今、臨床・研究を続けていられるのは、周囲のみんなのサポートのおかげです」。

それは仕事を手伝ってもらえるだけではなく、周囲の人々の存在は彼女を精神的にも支えてくれている。小椋教授の「超一流をめざせ」という言葉は、今や彼女の座右の銘でもある。そんな魅力的な上司や同僚に囲まれて仕事ができることを彼女は幸せに思っている。

さらに彼女は、医師の仕事だけでなく、母として家事も両立させなくてはならない。だから、さまざまな面で協力してくれる家族にも彼女はとても感謝している。

「平日に家のことができない分、週末はなるべく予定を入れないようにして、土日は子どもと思う存分遊ぶようにしています」。

こうして彼女が試行錯誤しながら医師と家庭を両立させることが、これから医師をめざす女性にとって働きやすい環境づくりにつながると彼女は信じている。

そのために、彼女は決めていることがある。

「仕事も家庭も、どちらも80~90%の力で続けること。長く走り続けるには、余力を残しておくことが大切です」。

と言いながら、つい患者さんと話し込んでしまう彼女は、自分の時間が少なくなることも珍しくない。

「現在、加齢黄斑変性は治療が困難で、どれだけ手を尽くしても視力が良くならない患者さんも多くおられるため、きちんと話をしてご理解いただくことが何より大切なんです」。

『小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す』。大学時代の講師の誰かから聞いた言葉はいつも彼女の中にある。

「大医は難しいけれど、せめて私は中医をめざしたい。だから私は、患者さん一人ひとりと向き合う時間を大切にしたいのです」。

それが、本学の医学部で学ぶうちに彼女が育んできた医師としての理想なのだ。今後も彼女は、理想の医師の姿を追い続けていく。

プロフィール

加藤亜紀さん
名古屋市立大学 大学院医学研究科 視覚科学 助教
[略歴]
1998年 名古屋市立大学 医学部 卒業
    名古屋市立大学病院 眼科 臨床研修医
1999年 常滑市民病院 眼科
2001年 名古屋市立大学 大学院医学研究科 博士課程
    東海産業医療団 中央病院
2005年 Honorary Research Associate, UCL, Institute of Ophthalmology
2009年 名古屋市立大学 大学院 視覚科学 助教

加藤亜紀さん 在学中テニス部時代の写真

もともとテニスが好きだった加藤さん。大学時代はテニス部に所属し、毎日医学部のある桜山キャンパスから滝子キャンパスに出向き、遅くまで練習した。「夏になると、みんな真っ黒になっていました」。卒業した後も交流は続き、「同じ名市大病院で勤務していた同僚とは、同僚だからこそ、いろんなことを気軽にお願いできました」と加藤さん。今もメンバー専用のメーリングリストがあり、連絡を取るという。

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