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紙とフィルムに眠っていた地磁気の記録140万枚をオンライン公開~世界121か所・100年以上の記録から過去の激甚磁気嵐の解明へ~


概要

京都大学、名古屋市立大学、名古屋大学の研究グループは、世界121か所の観測所で100年以上にわたり印画紙やマイクロフィルムに残されてきた地磁気のアナログ記録*1約140万枚を、検索・拡大・比較できるウェブサイト「COMPASS(コンパス)」で公開しました。図書館や美術館が古文書や絵画の公開に使う国際規格(IIIF(International Image Interoperability Framework)*2)を、地磁気や超高層大気*3の観測データとして世界で初めて採用することで、これらの膨大な記録の高画質デジタル画像を活用しやすい形で提供しています。「COMPASS」は、電子的な観測が普及する以前に起きた激甚磁気嵐*4の研究を後押しし、将来起こりうる最大級の磁気嵐の見積もりを通じて、停電や人工衛星の故障をもたらす宇宙天気*5現象への備えに役立つことが期待されます。

背景

地球の磁場(地磁気)は、太陽活動の影響で絶えず変動しています。太陽から大量のガス(太陽風)が吹き付けると地磁気が大きく乱れる「磁気嵐」が起こります。この中でも特に大きなもの(激甚磁気嵐)は停電や人工衛星の故障、通信障害を引き起こすことがあります。こうした激甚磁気嵐の脅威に備えるには、過去に学ぶ必要があります。幸い、その観測記録は100年以上さかのぼって保管されています。電子的な観測が普及する以前、地磁気の変化は印画紙やフィルムに記録されており、これらは二度と取り直すことのできない貴重な記録です。京都大学の地磁気世界資料解析センター*6は、世界中の観測所からこうした記録を集め、長年にわたってデジタル画像化してきました。

今回の成果

図1

図1: 1957年9月13日の磁気嵐時のアルジェリアと南極における地磁気観測記録の比較

本研究グループは、図書館や美術館が古文書や絵画の公開に使う国際規格「IIIF」を、地磁気や超高層大気の観測データとして世界で初めて応用し、世界41か国・121か所の観測所のアナログ記録など約140万枚のデジタル画像をウェブサイト「COMPASS(コンパス)」で公開しました。記録は1844年(ヘルシンキでの手書きの観測表)までさかのぼり、英国地質調査所が公開する同様の画像集(約25万枚)の5倍以上の規模です。IIIFの採用により、利用者はウェブブラウザで動作する高機能なビューアから観測所や年を指定して記録を探し、本のページをめくるように次々と見ていくことができ、画像を元の解像度まで拡大して、磁場の波形を1分ごとの変化まで細かく読み取れます。例えば、北海道でも赤いオーロラが見られたとされる1957年9月13日の磁気嵐(Hayakawa et al., 2023)について、まだどこにも数値データの存在しないアルジェリアと南極の記録を並べ、地球規模の地磁気の乱れを確かめられます(図1)。このように、アナログ記録でしか残っていない過去の激甚磁気嵐を調べ直す研究が進み、社会基盤を宇宙天気現象から守る備えにもつながります。COMPASSで公開される記録は補足情報のリンクにアクセスし、「Open IIIF Viewer (COMPASS)」をクリックすることで閲覧できます。

今後の展望

本研究グループは今後、この規格が備える注釈のしくみを生かし、磁気嵐などの現象が現れた位置や、記録の線をなぞって数値にしたデータ、目盛りなど記録を正しく読むための情報を画像に重ねて示せるようにします。あわせて、人工知能(AI)で記録を自動的に数値にする技術の開発も進めます。今回のしくみはオーロラの写真や電離圏観測データなど他の古い観測画像にも応用でき、同じ規格を使う機関が増えれば、分野をまたいだ研究が進むことが期待されます。なお、本研究成果は2026年9月11日付で国際学術誌『Earth, Planets and Space』に掲載され、北海道大学で開催される「地球電磁気・地球惑星圏学会 2026年秋季年会」において、2026年11月10日に発表される予定です。

補足情報

論文情報
Imajo, S., Matsuoka, A., Toh, H., Kotani, T., Odagi, Y., Iyemori, T., Nosé, M., Hayakawa, H. (2026) Comprehensive magnetogram portal and archive service system (COMPASS): an IIIF-based portal for over 1.4 million historical magnetogram records, Earth, Planets and Space, 78, 202. DOI: 10.1186/s40623-026-02534-4
参考文献
Hayakawa, H., Ebihara, Y., Hata, H. (2023) A Review for Japanese auroral records on the three extreme space weather events around the International Geophysical Year (1957 – 1958), Geoscience Data Journal, 10, 142-157. DOI: 10.1002/GDJ3.140
ウェブサイトCOMPASS: https://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/iiif_magnetogram/index.html


<用語解説>
*1 アナログ記録
地磁気の変化を連続的に線で描いた記録(マグネトグラム)やその値を目視で読み取った手書きの数値表。磁石に取り付けた鏡に光を当て、その反射光を回転するドラムに巻いた印画紙に当てることで、磁石の向きの変化が線として焼き付けられる。多くは保存のためにマイクロフィルムに写し取られ、スカンジナビアの多地点観測のように最初からフィルムに記録されたものもある。COMPASSの画像の大半は、このマイクロフィルムをデジタル化したものである。

*2 IIIF(トリプルアイエフ、国際画像相互運用フレームワーク)
画像をインターネットで公開・共有するための国際的な取り決め。世界の主要な図書館や美術館・博物館が中心となって作られ、古文書や絵画などのデジタル公開に広く使われている。この取り決めに沿って公開された画像は、どの機関のものでも同じ閲覧ソフトで拡大したり、並べて比べたりできる。

*3 超高層大気
地上からおよそ100km以上の高さにある大気。オーロラが光るのもこの領域で、太陽の光によって大気の一部が電気を帯びた「電離圏」を含む。電離圏を流れる電流は地上の地磁気を変化させるため、地磁気の観測は超高層大気の様子を知る手がかりにもなる。

*4 磁気嵐
太陽から噴き出した大量のガスの塊が地球に到達し、地球の周りの宇宙空間に強い電流が流れることで、地上の地磁気が数時間から数日にわたって大きく乱れる現象。強い磁気嵐のときは、ふだんより低い緯度でもオーロラが見られる。

*5 宇宙天気
太陽活動によって地球周辺の宇宙環境が変化し、人工衛星や通信、衛星測位(GPS)、送電網などに影響が及ぶこと。地上の天気予報になぞらえて「宇宙天気」と呼ばれ、その予報や対策が各国で進められている。

*6 地磁気世界資料解析センター(World Data Center for Geomagnetism, Kyoto)
京都大学大学院理学研究科の附属施設。世界の地磁気観測データを収集・保管・提供する国際的な「世界資料センター」の一つを運用し、地磁気の活動度を表す指数の算出や、観測記録の世界への公開を担っている。