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ジオスペースに漂う低温プラズマの異なる供給経路を新たに解明


ジオスペースに漂う低温プラズマの異なる供給経路を新たに解明
水素イオンは磁気圏尾部から、酸素イオンは夜側電離圏から

研究成果の概要

名古屋市立大学大学院データサイエンス研究科の能勢正仁教授を中心とする国内外の研究グループは、ジオスペース探査衛星「あらせ」(注1)が取得した約4年間の長期間にわたる観測データを統計解析し、ジオスペース(地球近傍の内部磁気圏(注2)、GPS衛星やひまわり衛星が飛翔する空間)に存在する30-300 eVの水素イオン(H⁺)と酸素イオン(O⁺)が、空間分布や時間変化に明確な違いを示すことを明らかにしました。H⁺は磁気圏の外側から磁気圏尾部を経て内側へ運ばれる「低温プラズマ被膜層(注3)」の内側部分である一方、O⁺は夜側の電離圏から磁力線に沿って直接供給される「低温プラズマトーラス(注4)」の一部であると考えられます。本成果は、二つの低エネルギープラズマ集団が異なる供給経路をもつことを、イオン種を識別した観測によって示したものです。ジオスペースのプラズマ循環や宇宙天気の理解を深める基盤となる成果です。

研究のポイント

・「あらせ」衛星搭載の低エネルギーイオン質量分析器(LEPi(注5))による約4年間のデータを用い、30-300 eVのH⁺とO⁺の空間分布や時間変化を同じ条件で比較しました。
・H⁺は真夜中前から朝・昼側にかけて広く分布し、磁気活動が強まると分布のピークが地球側へ移動しました。
・O⁺は真夜中から朝側のL=3-5に集中し、磁力線に沿う運動を示しました。外側からの流入ではなく、夜側電離圏から直接供給されると考えられます。
・低温プラズマ被膜層と低温プラズマトーラスは、異なる供給経路をもつ別個のプラズマ集団である可能性が高まりました。

背景

地球の磁場が支配する磁気圏には、数eVから数keV程度の低エネルギーイオンが存在します。これらは磁気圏の質量密度を左右し、磁気圏内の波動、粒子輸送、太陽風との相互作用などに影響するため、人類が宇宙へ進出する近未来において重要な「宇宙天気」を大きく変化させます。これまでの研究で、磁気圏には「低温プラズマ被膜層」および「低温プラズマトーラス」と呼ばれる2つの低温プラズマ集団があることが分かってきましたが、両者はエネルギーと存在領域の一部が重なるため、相互の関係やそれぞれ独立した集団なのかどうかが長年の課題でした。

研究の成果

研究グループは、2017年4月から2020年12月までの「あらせ」衛星の観測データを用い、地磁気赤道付近のL=2.5-6における30-300 eVのH⁺とO⁺の平均フラックスとピッチ角分布(注6)を統計的に調べました。
H⁺はL>4で、真夜中前から朝側を経て昼側まで広く増加していました。磁気活動が静かなときには夜側のピークがL=5.5-6にありましたが、Dst指数(注7)で計測された磁気活動が強まるとL=3.5-4.5まで地球側へ移動し、ピーク強度は約3倍になりました。ピッチ角分布も場所と磁気活動によって変化しました。これらは、電離圏から流出したH⁺が磁気圏尾部を通り、外側から内側へ輸送されて低温プラズマ被膜層を形成する描像と一致します。
一方、O⁺はL=3-5の限られた領域で、19時から翌朝9時の磁気地方時(注8)に集中していました。Dst指数で計測された磁気活動が強まるとL=3-5のO⁺は約5倍に増加しましたが、外側のL=6ではほとんど変化しませんでした。また、O⁺は磁気活動の強さにかかわらず、磁力線に沿う双方向の運動を示しました。この特徴は、O⁺が外側から内向きに運ばれるのではなく、夜側のオーロラ帯またはサブオーロラ帯の電離圏から磁力線に沿って直接供給され、朝側へ東向きに移動することを示します。観測されたO⁺は、低温プラズマトーラスの高エネルギー側に相当すると解釈されます。
以上から、H⁺を主体とする低温プラズマ被膜層の内側部分と、O⁺を主体とする低温プラズマトーラスの一部分は、空間的に一部重なっていても、主な供給源と輸送経路が異なるプラズマ集団である可能性が示されました。
本研究成果は2026年8月10日にJournal of Geophysical Research: Space Physicsで公表されました。

図1

ジオスペースにおける30-300 eVのO⁺の空間分布とその時間変動。磁気嵐が大きくなるほど(右のパネルほど)、O⁺の量は地球周辺では増加する一方、一番外側ではほとんど変化しないことが分かりました。

図2

本研究で明らかになった30-300 eVのH⁺(左)とO⁺(右)の起源と分布の概略。H⁺は磁気圏尾部を経由して低温プラズマ被膜層へ運ばれる一方、O⁺は夜側電離圏から直接供給され、低温プラズマトーラスを形成すると考えられます。

研究の意義と今後の展開や社会的意義など

本研究は、地球磁気圏の低エネルギーH⁺とO⁺について、空間分布、磁気活動への応答、ピッチ角分布をイオン種ごとに包括的に示したものです。低エネルギーイオン、とくに質量がH⁺の16倍であるO⁺は、磁気圏の質量密度や電磁波の伝わり方に大きく影響します。供給源と輸送経路を正しく理解することは、磁気嵐時のプラズマ循環や内部磁気圏の変化を再現する「宇宙天気モデルの高度化」につながります。
今後は、今回の解析範囲より低い30 eV未満を含む広いエネルギー帯でイオン種を識別し、異なる高度で同時観測することが重要です。これにより、夜側電離圏から供給されたO⁺が低温プラズマトーラスへ発達する過程と、低温プラズマ被膜層との境界をさらに詳しく検証できます。

用語解説

注1 ジオスペース探査衛星「あらせ」:JAXAが2016年に打ち上げた科学衛星。地球周辺の放射線帯やプラズマ、電磁場を総合的に観測します。
注2 磁気圏:地球の磁場に支配された宇宙空間。太陽風との相互作用によって形や状態が変化します。
注3 低温プラズマ被膜層:10 eV-3 keV程度のH⁺とO⁺からなり、夜側から朝・昼側へ広がる低エネルギープラズマ集団。英語で、ウォームプラズマ・クロークとも呼ばれます。
注4 低温プラズマトーラス:プラズマ圏外縁付近のL=3-5に分布するO⁺優勢の低エネルギープラズマ集団。酸素イオントーラスとも呼ばれます。
注5 LEPi:「あらせ」衛星に搭載された低エネルギーイオン質量分析器。約10 eV/q-25 keV/qのイオンを観測し、H⁺やO⁺などの種類を識別します。
注6 ピッチ角分布:イオンの運動方向と磁力線との角度の分布。0度・180度に多い場合は磁力線に沿う運動、90度に多い場合は磁力線を横切る運動が卓越します。
注7 Dst指数:地球規模の磁気嵐の強さを表す指標。一般に値が大きく負になるほど磁気活動が強いことを示します。
注8 L値・磁気地方時(MLT):L値は地磁気赤道面での地球中心からの距離を地球半径で表す指標です。磁気地方時は磁場を基準とした時刻で、12時が昼側、0時が夜側です。

研究助成

本研究は、JSPS科研費 JP21H01147、JP22KK0045、JP21H04518、JP22H00116、JP24H00164、JSPS Core-to-Core Program JPJSCCB20240003、文部科学省「データ駆動型科学推進のための研究データエコシステム構築」(2024-01)、名古屋市立大学 国際的な共同研究推進のための派遣・招へい支援プログラム(251009)、卓越研究グループ支援事業(2530002)などの助成を受けたものです。

論文情報

【論文タイトル】
Arase/LEPi Observations of Low-Energy H⁺ and O⁺ Ion Fluxes in the Inner Magnetosphere: Implications for the Relationship Between Warm Plasma Cloak and Oxygen Torus

【著者】
Masahito Nosé1*、Kazushi Asamura2、Yoshizumi Miyoshi3、Jih-Hong Shue4、Trunali Shah5、Ayako Matsuoka6、Mariko Teramoto7、Kazuhiro Yamamoto3、Atsushi Kumamoto8、Fuminori Tsuchiya8、Yoshiya Kasahara9、Atsuki Shinbori3、Iku Shinohara2
所属 1:Graduate School of Data Science, Nagoya City University
   2:Institute of Space and Astronautical Science, Japan Aerospace Exploration Agency
   3:Institute for Space-Earth Environmental Research, Nagoya University
   4:Department of Space Science and Engineering, National Central University, Taiwan
   5:Independent Scholar, Raleigh, North Carolina, United States
   6:Graduate School of Science, Kyoto University
   7:Department of Space Systems Engineering, Kyushu Institute of Technology
   8:Graduate School of Science, Tohoku University
   9:Emerging Media Initiative, Kanazawa University
(*Corresponding author (責任著者))

【掲載学術誌】
学術誌名:Journal of Geophysical Research: Space Physics
公開日:2026年8月10日
DOI番号:10.1029/2026JA035469