太陽フレアが宇宙望遠鏡のノイズに与える影響をAIで解明(紫外線宇宙望遠鏡「ひさき」データ解析から即時応答の可能性を示唆)
研究成果の概要
名古屋市立大学大学院データサイエンス研究科の古賀亮一特任助教らは、東京大学大学院新領域創成科学研究科の吉岡和夫准教授と共同で、地球周回宇宙望遠鏡「ひさき」に搭載されたマイクロチャンネルプレート(MCP)検出器(注1)のダークカウント(注2)(本来の観測対象である紫外線光子以外に、宇宙線や高エネルギー粒子などによって検出器が応答する信号)の変動について、説明可能な機械学習を用いた解析を行いました。2013年から2018年の観測データと、太陽活動・地磁気データを統合してモデル化し、SHAP(SHapley Additive exPlanations)(注3)による解釈を行いました。その結果、従来主因と考えられていたコロナ質量放出に加え、太陽フレアに伴うX線変動が遅延なく検出器応答に影響する可能性が示されました。本成果は、観測データの品質評価や宇宙環境の理解に重要な知見を与えるものです。
研究のポイント
・説明可能AIにより宇宙望遠鏡検出器ノイズの要因を定量的に解析
・太陽フレアに伴うX線変動が即時的に影響する可能性を示唆
・観測装置の応答特性と宇宙環境の関係を新たに解明
・太陽フレアに伴うX線変動が即時的に影響する可能性を示唆
・観測装置の応答特性と宇宙環境の関係を新たに解明
背景
地球周回紫外線宇宙望遠鏡「ひさき」に搭載されたマイクロチャンネルプレート(MCP)検出器では、観測対象である紫外線光子とは異なり、宇宙線や放射線帯粒子などにより検出器が応答して発生する「ダークカウント」が不可避的に存在します。このダークカウントは単なるランダムノイズではなく、宇宙線や太陽活動、地磁気環境などの影響を受けて時間的に変動することが知られています。しかし、その変動要因は複数の物理過程が重なり合うため、どの現象がどの程度寄与しているのかを定量的に分離することは困難でした。
特に、太陽フレアやコロナ質量放出(CME)といった太陽活動が検出器に与える影響については、経験的な関連性は指摘されていたものの、観測データに基づいた定量的な評価や因果関係の解釈は十分に行われていませんでした。
このような背景から、本研究では機械学習を用いて複雑な要因の関係をモデル化するとともに、その内部構造を解釈可能にすることで、ダークカウント変動の物理的起源の解明を目指しました。
特に、太陽フレアやコロナ質量放出(CME)といった太陽活動が検出器に与える影響については、経験的な関連性は指摘されていたものの、観測データに基づいた定量的な評価や因果関係の解釈は十分に行われていませんでした。
このような背景から、本研究では機械学習を用いて複雑な要因の関係をモデル化するとともに、その内部構造を解釈可能にすることで、ダークカウント変動の物理的起源の解明を目指しました。
研究の成果
本研究では、2013年から2018年にかけて宇宙望遠鏡「ひさき」により取得されたMCP検出器のダークカウントデータを対象とし、衛星の軌道情報(位置・磁気緯度・ローカルタイムなど)に加えて、GOES静止衛星によるX線フラックス、陽子・電子フラックス、磁場強度、および地磁気指数SYM-H(注4)を統合した機械学習モデルを構築しました。さらに、SHAP(SHapley Additive exPlanations)を用いることで、各特徴量がダークカウント変動にどの程度寄与しているかを時間ごと・イベントごとに評価しました。
その結果、ダークカウントの急増イベントは一様な原因では説明できず、イベントごとに支配的な要因が異なることが明らかになりました。従来主因と考えられてきたコロナ質量放出に伴う粒子増加に加え、太陽フレアに伴うX線強度の増加が、ほとんど時間遅れなくダークカウントに寄与するケースが存在することが示されました。これにより従来想定されていた「粒子到達後に影響が現れる」という描像とは異なる、より即時的な応答の存在が示唆されました。
その結果、ダークカウントの急増イベントは一様な原因では説明できず、イベントごとに支配的な要因が異なることが明らかになりました。従来主因と考えられてきたコロナ質量放出に伴う粒子増加に加え、太陽フレアに伴うX線強度の増加が、ほとんど時間遅れなくダークカウントに寄与するケースが存在することが示されました。これにより従来想定されていた「粒子到達後に影響が現れる」という描像とは異なる、より即時的な応答の存在が示唆されました。
研究の意義と今後の展開や社会的意義など
本研究は、観測装置のノイズ(外乱信号)を単なる除去対象ではなく「宇宙環境を反映する信号」として捉え直した点に特徴があります。これにより、宇宙望遠鏡データの信頼性向上や、宇宙天気現象の新たな観測手法の開発につながる可能性があります。今後は他の衛星データへの応用やリアルタイム異常検知への展開が期待されます。

用語解説
(注1) マイクロチャンネルプレート(MCP)検出器:電子増倍機構を持つ高感度検出器
(注2) ダークカウント:観測対象である光子以外(宇宙線や高エネルギー粒子など)によって検出器が応答して生じる信号。本研究では主に地球放射線帯粒子や太陽フレアに伴うX線に起因する成分を指す。
(注3) SHAP(SHapley Additive exPlanations):機械学習モデルの予測に対する各入力要因の寄与を定量化する手法
(注4) SYM-H指数:地磁気擾乱の強さを示す指標
(注2) ダークカウント:観測対象である光子以外(宇宙線や高エネルギー粒子など)によって検出器が応答して生じる信号。本研究では主に地球放射線帯粒子や太陽フレアに伴うX線に起因する成分を指す。
(注3) SHAP(SHapley Additive exPlanations):機械学習モデルの予測に対する各入力要因の寄与を定量化する手法
(注4) SYM-H指数:地磁気擾乱の強さを示す指標
研究助成
本研究はJSPS科研費JP22K14084, JP22KK0045, JP21H04518, JP22H00116, JP24H00164, JP20KK0074, JP19H01948、JST CREST「人とAIの協働ヒューマンコンピュテーション基盤」、文部科学省「データ駆動型科学推進のための研究データエコシステム構築」(2024-01)、名古屋市立大学 卓越研究グループ支援事業(No. 2530002)の助成を受けたものです。
論文情報
【論文タイトル】
Explainable machine learning of the MCP dark count observed by Earth-orbiting space telescope
【著者】
古賀亮一*1、小山聡1、能勢正仁1、吉岡和夫2
所属
1:名古屋市立大学 大学院データサイエンス研究科
2:東京大学 大学院新領域創成科学研究科
(*責任著者 Corresponding author)
【掲載学術誌】
学術誌名:Frontiers in Astronomy and Space Sciences
DOI番号:10.3389/fspas.2026.1786771
Explainable machine learning of the MCP dark count observed by Earth-orbiting space telescope
【著者】
古賀亮一*1、小山聡1、能勢正仁1、吉岡和夫2
所属
1:名古屋市立大学 大学院データサイエンス研究科
2:東京大学 大学院新領域創成科学研究科
(*責任著者 Corresponding author)
【掲載学術誌】
学術誌名:Frontiers in Astronomy and Space Sciences
DOI番号:10.3389/fspas.2026.1786771