LP.8.1一価ワクチンにより誘導されるXEC, LP.8.1, NB.1.8.1, XFG,BA.3.2を含む広域なSARS-CoV-2変異株に対する液性免疫の解析
発表のポイント
・本研究は、オミクロンLP.8.1株対応一価ワクチンにより誘導されるオミクロン亜株に対する中和抗体応答の効果を明らかにした。
・オミクロンLP.8.1株対応一価ワクチンにより、オミクロンBA.3.2株を含むさまざまなオミクロン亜株に対する中和抗体が誘導されることが明らかとなった。

オミクロンJN.1株対応一価ワクチンとオミクロンLP.8.1株対応一価ワクチンによる中和抗体誘導効果の比較
概要
本研究成果は2026年1月12日、英国科学雑誌「The Lancet Infectious Diseases」オンライン版で公開されました。
発表内容
現在の新型コロナウイルス感染流行の主流株は2021年11月26日、世界保健機関(WHO)により「オミクロン株」と名付けられたB.1.1.529株の子孫株となっています。これまでに、2022年にはオミクロンBA.5株、2023年にはオミクロンXBB.1.5株、そして同年末からはオミクロンJN.1株を中心とした複数のオミクロン亜株が相次ぎ出現してきました。WHOは2025年12月現在、世界的な主流行株となったオミクロンJN.1株を「注目すべき変異株(VOI:variants of interest)」(注4)に、JN.1株の子孫株およびその組み換え変異株(オミクロンKP.3.1.1株、オミクロンLP.8.1株、オミクロンNB.1.8.1株、オミクロンXFG株)を「監視下の変異株(VUM:variants under monitoring)」(注5)に指定しています。また、2021年にオミクロンBA.1株、オミクロンBA.2株に続いて出現したオミクロンBA.3株の子孫株であるオミクロンBA.3.2株をVUMに含めて、流行動態を注視しています。
これまでに新型コロナウイルス感染症の拡大や重症化を防ぐため、祖先株(D614G)ワクチンだけでなくオミクロンBA.4/5株対応ワクチンやXBB.1.5株対応ワクチン、JN.1株対応ワクチンの接種体制が逐次整備されてきました。そして、本邦では2025年10月よりオミクロンLP.8.1株やオミクロンNB.1.8.1株などの流行による感染・重症化を防ぐため、オミクロンLP.8.1株対応一価ワクチンが接種可能となりました。
本研究では2種類のオミクロンLP.8.1株対応一価ワクチン(ファイザー/ビオンテック社製mRNAワクチン、ノババックス/武田薬品製組み換えタンパク質ワクチン)について、ワクチン接種前および接種3-4週間後の血清による中和抗体誘導効果を検証しました。これらの血清を用いて、これまでのワクチン株およびオミクロンJN.1子孫株および、その組換え変異株、オミクロンBA.3.2株に対する感染中和活性を検証したところ、ファイザー/ビオンテック製のLP.8.1株対応一価mRNAワクチンでは血清の中和活性が接種前(Pre)に比べ接種後(Post)は1.4-3.6倍(図1上図)へ、ノババックス/武田薬品製のLP.8.1株対応組換えタンパク質ワクチンでは血清の中和活性が接種前(Pre)に比べて接種後(Post)は1.3-3.1倍(図1下図)へ有意に上昇しました。いずれのLP.8.1株対応一価ワクチンにおいても、オミクロンJN.1株およびその子孫株や組換え変異株、オミクロンBA.3.2株の免疫逃避能の高い変異株に対しても中和抗体応答が認められたことから、これらのLP.8.1株対応一価ワクチンは現在の流行株に対する感染予防効果、重症化予防効果が期待されます。

図1.オミクロンLP.8.1株対応一価ワクチンによる中和抗体誘導効果
オミクロンLP.8.1株対応一価mRNAワクチン(ファイザー/ビオンテック社製、上図;ノババックス/武田薬品製、下図)の接種前(Pre)と接種後(Post)の血清中和抗体の中和活性を評価した。縦軸はウイルス感染を50%阻害する中和抗体の中和活性(NT50値)を示し、値が大きいほど中和活性が高いことを示す。横軸括弧内の数字はそれぞれの変異株に対するNT50値の中央値を示し、上下の波線はそれぞれ中和抗体価の検出上限(29,160倍)および下限(40倍)を示している。検出下限下部のグレー領域は検出限界以下の範囲を示している。横軸上の数字は中和抗体価が検出下限以下の血清数を示している。また、図中にはワクチン接種前後のNT50値の上昇倍率を、ウィルコクソンの符号順位検定結果とともに赤字で示している。
現在、研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium」では、出現が続くさまざまな変異株について、ウイルス学的な特性の解析や、中和抗体や治療薬への感受性の評価、病原性についての研究に取り組んでおり、今後も、新型コロナウイルスの変異(genotype)の早期捕捉と、その変異がヒトの免疫やウイルスの病原性・複製に与える影響(phenotype)を明らかにするための研究を推進します。
なお、本研究は、東京大学医科学研究所における倫理審査委員会の審査を受け、東京大学が定めた研究倫理審査実施規則等(承認番号: 2021-1-0416, 2021-18-0617, 2022-29-0915)に則り実施されました。

図2.オミクロンJN.1株対応一価ワクチンとオミクロンLP.8.1株対応一価ワクチンによる中和抗体誘導効果の比較
2024年にオミクロンJN.1株対応一価mRNAワクチン(ファイザー/ビオンテック製)と2025年にオミクロンLP.8.1株対応一価mRNAワクチン(ファイザー/ビオンテック製)を接種した人の接種前(Pre)と接種後(Post)の血清中和抗体の中和活性を評価した。縦軸はウイルス感染を50%阻害する中和抗体の中和活性(NT50値)を示し、値が大きいほど中和活性が高いことを示す。横軸括弧内の数字はそれぞれの変異株に対するNT50値の中央値を示し、上下の波線はそれぞれ中和抗体価の検出上限(29,160倍)および下限(40倍)を示している。横軸上の数字は中和抗体価が検出感度以下の血清数を示している。また、NT50値の差をウィルコクソンの符号順位検定にて解析し、図中に有意差を赤字で示している(*:p<0.05、**:p<0.01)。
論文情報
題 名:Humoral immunity induced by LP.8.1 monovalent vaccines against a broad range of SARS-CoV-2 variants including XEC, LP.8.1, NB.1.8.1, XFG, and BA.3.2
著者名:郭 悠#, 藤原 瑞夏#, 瓜生 慧也#, Maximilian Stanley Yo, 川久保 修佑, 伊東 潤平, 伊東 直哉, 上蓑 義典, 斎藤 史武, 佐藤 博紀, The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium, 佐藤 佳*
(#Equal contribution; *Corresponding author)
DOI: 10.1016/S1473-3099(25)00772-8
URL: https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(25)00772-8/fulltext
研究助成
用語解説
東京大学医科学研究所 システムウイルス学分野の佐藤佳教授が主宰する研究チーム。日本国内の複数の若手研究者・研究室が参画し、研究の加速化のために共同で研究を推進している。現在では、イギリスを中心とした諸外国の研究チーム・コンソーシアムとの国際連携も進めている。
(注2)オミクロンLP.8.1株対応一価ワクチン
オミクロンLP.8.1株のスパイクタンパク質を有効成分とする一価ワクチン。
(注3)中和抗体
獲得免疫応答のひとつ。B細胞によって産生される抗体でSARS-CoV-2の主にスパイクタンパク質の細胞への結合を阻害し、ウイルス感染を中和する作用がある。
(注4)注目すべき変異株(VOI:variants of interest)
新型コロナウイルスの流行拡大によって出現した、顕著な変異を有する変異株のことであり、今後感染者の増加が懸念される変異株。
(注5)監視下の変異株(VUM:variants under monitoring)
新型コロナウイルスの変異株のうち、世界保健機関(WHO)が指定する今後流行拡大の可能性が懸念される変異株。