ウマノスズクサの「アルカロイド」はどう作られるのか?~生合成経路の上流ではたらく2つの「O-メチル基転移酵素」を解明~
ウマノスズクサ属(Aristolochia)が産生するアリストロキア酸は、腎毒性を示す物質であり、古来より薬として用いられてきたこれら植物の利用を妨げているだけでなく、類似生薬への混入による健康被害も報告されています。近年、代謝工学(注1)という手法の発達により、植物由来成分の生産性を高めたり、遮断したりすることが可能となってきていますが、そのためには生産の仕組みを理解する必要があります。しかし、アリストロキア酸の生産機構の全貌は今も謎に包まれたままです。
神戸薬科大学 医薬細胞生物学研究室の山田泰之講師、士反伸和教授、名古屋市立大学医薬学総合研究院 大学院薬学研究科の寺坂和祥講師らの研究グループは、京都大学大学院生命科学研究科の佐藤文彦教授(現公益財団法人サントリー生命科学財団生物有機科学研究所)らと共同で、ウマノスズクサ科ウマノスズクサが産生するアリストロキア酸などのベンジルイソキノリンアルカロイド(注2)生合成に関わる2種類のO-メチル基転移酵素(注3)を単離し、その酵素機能を生化学的解析により明らかにしました。この研究成果は、ウマノスズクサが産生する多様なアルカロイド生産機構の解明につながることが期待されます。
本研究成果は、2025年12月13日に国際学術誌「Plant Physiology and Biochemistry」にオンライン掲載されました。
神戸薬科大学 医薬細胞生物学研究室の山田泰之講師、士反伸和教授、名古屋市立大学医薬学総合研究院 大学院薬学研究科の寺坂和祥講師らの研究グループは、京都大学大学院生命科学研究科の佐藤文彦教授(現公益財団法人サントリー生命科学財団生物有機科学研究所)らと共同で、ウマノスズクサ科ウマノスズクサが産生するアリストロキア酸などのベンジルイソキノリンアルカロイド(注2)生合成に関わる2種類のO-メチル基転移酵素(注3)を単離し、その酵素機能を生化学的解析により明らかにしました。この研究成果は、ウマノスズクサが産生する多様なアルカロイド生産機構の解明につながることが期待されます。
本研究成果は、2025年12月13日に国際学術誌「Plant Physiology and Biochemistry」にオンライン掲載されました。

研究の背景
ウマノスズクサ属(Aristolochia)植物は様々な薬用成分を含み、古来より薬として利用されてきました。しかし、ウマノスズクサ属に含まれるアリストロキア酸に腎毒性や発がん性があることが報告され、使用部位、あるいは使用そのものが制限されるようになってきています。日本では現在、アリストロキア酸を含む生薬や漢方薬は承認されていませんが、中国では一部が今も流通しており、見た目や名前の似た生薬と混同され流通し、健康被害を引き起こした事例も報告されています(参考:厚生労働省医薬食品局HP)。
アリストロキア酸は鎮痛薬のモルヒネや抗菌整腸薬のベルベリンに代表されるベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)に分類されます。アリストロキア酸の構造は非常に特徴的であるため、植物体内での生産の仕組み(生合成機構)は完全には解明されていません。近年、代謝工学と呼ばれる手法により生合成の改変が可能となってきています。すなわち、アリストロキア酸を生産しない植物を作出し、ウマノスズクサ属の安全な利用や他の希少なBIA中間体にどのような薬理活性があるか探索を進めていくためには、生合成の理解が不可欠と言えます。
アリストロキア酸は鎮痛薬のモルヒネや抗菌整腸薬のベルベリンに代表されるベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)に分類されます。アリストロキア酸の構造は非常に特徴的であるため、植物体内での生産の仕組み(生合成機構)は完全には解明されていません。近年、代謝工学と呼ばれる手法により生合成の改変が可能となってきています。すなわち、アリストロキア酸を生産しない植物を作出し、ウマノスズクサ属の安全な利用や他の希少なBIA中間体にどのような薬理活性があるか探索を進めていくためには、生合成の理解が不可欠と言えます。
研究手法と成果
我々は、日本各地に自生するウマノスズクサ科ウマノスズクサ(Aristolochia debilis)の培養細胞や再分化植物体などを取得し、RNAシーケンス解析(注4)を実施してアリストロキア酸やその他BIAの生合成に関わると予想される遺伝子群を網羅的に探索しました。その中から、BIAの骨格形成への寄与が大きいO-メチル基転移酵素(O-methyltransferase:OMT)をコードする遺伝子群に着目し、2種類のOMT遺伝子を単離して、それぞれAdOMT1、AdOMT2と命名しました。
次に、大腸菌においてAdOMT1とAdOMT2タンパク質をそれぞれ発現させて精製し、得られた精製タンパク質を様々なBIA基質と反応させ、生成物の有無を質量分析装置(UPLC-MS)により解析しました。その結果、AdOMT1は、ノルコクラウリン、ノルラウダノソリン、ラウダノソリンの6位水酸基に対して高いメチル化活性を示しました。また、AdOMT1とノルコクラウリンの反応では、6位と7位、あるいは6位と4’位の水酸基が同時にメチル化された生成物も見られました(図1左)。さらに、AdOMT1は、6位がメトキシ基となっているBIAの7位水酸基もメチル化することが分かりました。一方、AdOMT2は、様々なBIAの7位水酸基をメチル化し、特にコクラウリンやN-メチルコクラウリンに対して高い活性を示しました(図1右)。以上の結果から、AdOMT1とAdOMT2はともに、1-ベンジルイソキノリン型を中心とした幅広いBIAを認識し、特にAdOMT1は複数ヵ所の水酸基をメチル化する活性をもつ可能性が示唆されました。
さらに我々は、AdOMT1、およびAdOMT2の酵素反応速度論的解析を行いました。その結果、AdOMT1はノルラウダノソリンやノルコクラウリン、AdOMT2はコクラウリンに対する総合的な触媒機能(Kcat/Km値)が特に高いことが明らかとなりました。また、AlphaFold2(注5)を用いてAdOMT1およびAdOMT2の立体構造を予測し、基質とのドッキング予測(シミュレーション)を行うことで、基質の認識に重要だと思われるアミノ酸残基の推定を行いました。最後に、ウマノスズクサ植物体の各組織におけるAdOMT1およびAdOMT2の遺伝子発現パターンと、BIA蓄積量を分析し、植物体内における各OMTの生理的機能についての考察も行いました。
次に、大腸菌においてAdOMT1とAdOMT2タンパク質をそれぞれ発現させて精製し、得られた精製タンパク質を様々なBIA基質と反応させ、生成物の有無を質量分析装置(UPLC-MS)により解析しました。その結果、AdOMT1は、ノルコクラウリン、ノルラウダノソリン、ラウダノソリンの6位水酸基に対して高いメチル化活性を示しました。また、AdOMT1とノルコクラウリンの反応では、6位と7位、あるいは6位と4’位の水酸基が同時にメチル化された生成物も見られました(図1左)。さらに、AdOMT1は、6位がメトキシ基となっているBIAの7位水酸基もメチル化することが分かりました。一方、AdOMT2は、様々なBIAの7位水酸基をメチル化し、特にコクラウリンやN-メチルコクラウリンに対して高い活性を示しました(図1右)。以上の結果から、AdOMT1とAdOMT2はともに、1-ベンジルイソキノリン型を中心とした幅広いBIAを認識し、特にAdOMT1は複数ヵ所の水酸基をメチル化する活性をもつ可能性が示唆されました。
さらに我々は、AdOMT1、およびAdOMT2の酵素反応速度論的解析を行いました。その結果、AdOMT1はノルラウダノソリンやノルコクラウリン、AdOMT2はコクラウリンに対する総合的な触媒機能(Kcat/Km値)が特に高いことが明らかとなりました。また、AlphaFold2(注5)を用いてAdOMT1およびAdOMT2の立体構造を予測し、基質とのドッキング予測(シミュレーション)を行うことで、基質の認識に重要だと思われるアミノ酸残基の推定を行いました。最後に、ウマノスズクサ植物体の各組織におけるAdOMT1およびAdOMT2の遺伝子発現パターンと、BIA蓄積量を分析し、植物体内における各OMTの生理的機能についての考察も行いました。

波及効果、および今後の予定
我々の研究結果から、AdOMT1は特にノルコクラウリンやノルラウダノソリンの6位水酸基のメチル化に、AdOMT2はコクラウリンの7位水酸基のメチル化に関わることが明らかとなりました。ウマノスズクサからはコクラウリンや、コクラウリンの7位水酸基のメチル化によって生じるノルアルメパビンが実際に検出されたことから、ウマノスズクサにおいてもこれら化合物の生成反応にAdOMT1やAdOMT2が関わっていると考えられます。
今後は、さらに下流のアリストロキア酸やBIA生合成経路に関わる酵素遺伝子の探索を進め、それらの生産機構の詳細を明らかにしていきたいと考えています。また、AdOMT1が複数ヵ所の水酸基に対するメチル化活性を有していた点は非常に興味深く、今後、他のBIA産生植物に見られるOMTとの構造比較や重要アミノ酸残基の特定を進めることで、酵素機能の改変などにもつながることが期待されます。
今後は、さらに下流のアリストロキア酸やBIA生合成経路に関わる酵素遺伝子の探索を進め、それらの生産機構の詳細を明らかにしていきたいと考えています。また、AdOMT1が複数ヵ所の水酸基に対するメチル化活性を有していた点は非常に興味深く、今後、他のBIA産生植物に見られるOMTとの構造比較や重要アミノ酸残基の特定を進めることで、酵素機能の改変などにもつながることが期待されます。
用語解説
(注1)代謝工学
細胞内において特定の化合物の代謝経路を遺伝子操作などによって改変することで、目的の物質を効率よく生産させたりする技術のこと。大きく分けると主に、①目的物質を作るために必要な酵素の量を増やして合成経路を強化し生産量を増やす、②特定の物質を作る経路を遺伝子破壊により遮断して生産させなくする、③他の生物由来の遺伝子を組み込むことで本来その細胞が作ることのできない新しい物質を作らせる、の3つに分けられる。これらの技術を活用し、GABAを高蓄積するトマト(サナテックシード株式会社)、青いバラ(サントリーフラワーズ株式会社)、有毒成分を作らないジャガイモなどが開発されている。
(注2)ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)
主に植物が作っている窒素を含む天然有機化合物(アルカロイド)の一大グループ。イソキノリン環と呼ばれる骨格にベンジル基が結合した基本構造を持つ。鎮痛薬のモルヒネなど強力な生理活性物質を含むため、薬学の分野でも重要視されている。すべてのBIAはアミノ酸の一種であるL-チロシンから生合成され、骨格構造によって1-ベンジルイソキノリン型、プロトベルベリン型、ベンゾフェナンスリジン型、モルフィナン型、アポルフィン型など様々なタイプに分類される。
(注3)O-メチル基転移酵素
S-アデノシルメチオニンなどの供与体となる分子から、基質分子の水酸基(-OH)などの酸素原子に対してメチル基(-CH3)を転移させる反応を触媒する酵素の総称。
(注4)RNAシーケンス
核酸の配列情報を読み取ることが可能な次世代シーケンサーを利用して、細胞内に存在するRNA(転写産物)の配列情報や量を網羅的に調べる解析手法。
(注5)AlphaFold2
Google DeepMind社が開発したAIプログラムで、タンパク質の三次元構造を高精度に予測するシステム。本来、タンパク質の構造解析には多くの時間やコストを必要とするが、AlphaFold2を利用することで、誰もが高速かつ効率よく推定立体構造を導き出すことが可能となり、生物学・創薬・生命科学の分野に革命をもたらした。2024年にはAlphaFold2の開発者らがノーベル化学賞を受賞した。
細胞内において特定の化合物の代謝経路を遺伝子操作などによって改変することで、目的の物質を効率よく生産させたりする技術のこと。大きく分けると主に、①目的物質を作るために必要な酵素の量を増やして合成経路を強化し生産量を増やす、②特定の物質を作る経路を遺伝子破壊により遮断して生産させなくする、③他の生物由来の遺伝子を組み込むことで本来その細胞が作ることのできない新しい物質を作らせる、の3つに分けられる。これらの技術を活用し、GABAを高蓄積するトマト(サナテックシード株式会社)、青いバラ(サントリーフラワーズ株式会社)、有毒成分を作らないジャガイモなどが開発されている。
(注2)ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)
主に植物が作っている窒素を含む天然有機化合物(アルカロイド)の一大グループ。イソキノリン環と呼ばれる骨格にベンジル基が結合した基本構造を持つ。鎮痛薬のモルヒネなど強力な生理活性物質を含むため、薬学の分野でも重要視されている。すべてのBIAはアミノ酸の一種であるL-チロシンから生合成され、骨格構造によって1-ベンジルイソキノリン型、プロトベルベリン型、ベンゾフェナンスリジン型、モルフィナン型、アポルフィン型など様々なタイプに分類される。
(注3)O-メチル基転移酵素
S-アデノシルメチオニンなどの供与体となる分子から、基質分子の水酸基(-OH)などの酸素原子に対してメチル基(-CH3)を転移させる反応を触媒する酵素の総称。
(注4)RNAシーケンス
核酸の配列情報を読み取ることが可能な次世代シーケンサーを利用して、細胞内に存在するRNA(転写産物)の配列情報や量を網羅的に調べる解析手法。
(注5)AlphaFold2
Google DeepMind社が開発したAIプログラムで、タンパク質の三次元構造を高精度に予測するシステム。本来、タンパク質の構造解析には多くの時間やコストを必要とするが、AlphaFold2を利用することで、誰もが高速かつ効率よく推定立体構造を導き出すことが可能となり、生物学・創薬・生命科学の分野に革命をもたらした。2024年にはAlphaFold2の開発者らがノーベル化学賞を受賞した。
論文情報
雑誌名: Plant Physiology and Biochemistry
論文名: Molecular characterization of two O-methyltransferases involved in benzylisoquinoline alkaloid biosynthesis in Aristolochia debilis
著者名: Yasuyuki Yamada(共同責任著者), Toshiki Matsui, Fumika Nomura, Yuka Shimizu, Tetsu Oguni, Yoshihisa Murakami, Nobukazu Shitan, Kazuyoshi Terasaka(共同責任著者), Fumihiko Sato
DOI: https://doi.org/10.1016/j.plaphy.2025.110956
論文名: Molecular characterization of two O-methyltransferases involved in benzylisoquinoline alkaloid biosynthesis in Aristolochia debilis
著者名: Yasuyuki Yamada(共同責任著者), Toshiki Matsui, Fumika Nomura, Yuka Shimizu, Tetsu Oguni, Yoshihisa Murakami, Nobukazu Shitan, Kazuyoshi Terasaka(共同責任著者), Fumihiko Sato
DOI: https://doi.org/10.1016/j.plaphy.2025.110956