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在学生の声

看護師の資格を取得している2人がさらに2年間の大学院に進む意味。

大学院で看護を学ぶということ

医療の高度化が進む今日、看護にも今まで以上に専門的で高度な知識と技術が求められている。こうした中、大学の看護学部で4年間学んで看護師の資格を取得し、さらに大学院で学ぶ学生もいる。彼・彼女らは何を求めて大学院に進み、そこで何を見つけていくのだろう。

助産師人生で最も大変な時間

助産師の資格取得をめざして名古屋市立大学の大学院看護学研究科助産学領域へ進学する学生たちがいる。今回話を伺った2人もそうだ。

名古屋市立大学大学院看護学研究科2年の千葉美音(ちばみおん)さんは、名古屋市立大学看護学部の卒業生。高校生の頃から助産師の資格を取ろうと考えていたため、4年間通い慣れた本学の大学院に進学した。

一方、同研究科2年の田口水唯(たぐちみゆい)さんは、他大学で看護学を学んでいた。

3年生の時の実習で見た、てきぱきと行動する助産師の姿に憧れ、助産師をめざして本学大学院へ。出身の大学は異なるが、2人に共通しているのは、大学院に進学する前に大きな「覚悟」を決めたということだった。

千葉さん(左)と田口さん(右)

「名市大を薦めてくれた助産師の先生が、自分の人生の中で助産学生時代がいちばん大変だったとおっしゃっていたので、かなりの覚悟を決めていました」(田口さん)

「私も、大学生の時から大変という話は聞いていたので覚悟はしていました」(千葉さん)

大学で4年間学んできているから、2人とも助産師の仕事に関する知識はある。しかし大学院1年目の実習で、身をもって助産師の仕事の大変さを知ることになった。

「実習で出産に立ち会わせていただき、本当に助産師さんは2人の命を預かっているんだと痛感しました」(千葉さん)

「実習の前には、できるだけ予習して準備したつもりですが、知識として知っていることと実際に産婦(分娩中の女性)さんを前にして行動できることは違うということがよく分かりました」(田口さん)

できない自分を自覚する

看護部2年 千葉 美音さん

千葉さんには、今も忘れられないことがある。

「分娩の前、痛みと不安でパニックになった妊婦さんから、一緒にいてほしいと手を握ってお願いされたことがありました。その時、私は実習生として分娩室の準備や指導者への報告をする必要があり、ごめんなさいと言ってその場を立ち去ってしまいました。それがずっと心残りでした」

では、助産師としてどう行動すれば良かったのだろう。

「妊婦さんが不安に思うのは当たり前。だから、今は用事があることをお伝えし、その後に戻ることをきちんと伝えるべきでした。以降、できるだけ私がそばにいてお声がけをしたり背中をさすったり、コミュニケーションを取るようになりました」

田口さんも、自分がどれだけできないかを思い知らされる毎日だった。知識としては知っていても、その場で身体が動かない。

「たとえば分娩の体位を取っていただくタイミングは、早すぎても遅すぎてもダメで、産婦さんの状態を見て判断しなくてはならないのですが、最初は焦りや緊張から自分で介助を行うというよりも今どのような状況かを考えることで精いっぱいでした」

実習では、誰もが真剣に目の前の命に向き合っている。田口さんも一例一例を大切にし、学んだことをしっかり自分のものにして次に生かすことを心掛けていた。

「毎日、実習が終わるたびにその日の振り返りをノートに書きだして、時間があれば読み返して次の実習に備えていました」

すべての失敗は未来のため

一般的に、出産を終えたお母さんと助産スタッフは、出産を振り返る「バースレビュー」という話し合いを行う。

「バースレビューとは、お母さんに出産体験を良いものとして受け止めていただき、自信としてもらうために行うもの。出産に対する満足感は、お母さんの産後の精神面や子どもへの愛着に影響します」(千葉さん)

実習で出産に立ち会った2人も、一緒に出産を振り返ってわだかまりを解消したり、「とても落ち着いて呼吸をされていましたよ」など、出産を無事に乗り越えたお母さんの頑張りや体験を共有する。しかし、バースレビューはお母さんだけのものではないのかもしれない。

看護部2年 田口水唯さん

「この時、お母さんから『あの時、あなたが声をかけてくれてとても力になりました』などと言っていただくと、私たちももっと頑張ろうという気持ちになります」(田口さん)

医療の世界では、一歩間違えば人命に直結するため、失敗は許されない。しかし何が起きるか分からない実際の臨床の現場で、教科書どおりに物事が進むことはない。だから実習で多くの失敗やイレギュラーな事態を経験しておくことが、将来に向けての財産になる。

「実習を通して、自分がどれだけできないかを思い知りました」(千葉さん)

そこでできなかったことだけにフォーカスするのではなく、その経験を次にどう生かすかを考えることが大切になる。

「毎日、実習の後に2人で反省会を開いていました」(田口さん)

時には互いの失敗を共有したり、互いの良いところを褒めあったりしながら、2人は互いに支え合って実習を乗り越えた。

大学院で学んだこと

大学での分娩介助演習の様子
千葉さん(右端)と田口さん(右から2番目)

千葉さんは名古屋市内の病院に、田口さんは岐阜市内の病院に就職することが決まっている。4年制の看護学部を出てすぐ就職せず、2年間の大学院生活を経験したことを、2人はどのように考えているのだろう。

「2年間で助産師という仕事を深く知ることができたおかげで、私にとって最大の興味はコミュニケーションだということが分かりました。就職先を規模や知名度ではなく、『自分の興味を追求できるかどうか』という視点で選べたのは、大学院の学びがあるからだと思います」(千葉さん)

「学部時代と違い、大学院では多くの論文を読む機会に恵まれました。こうした論文を通して視野が広がったことと、情報を自分なりに理解し、実践し、次につなげるというプロセスを学べたことは、今後の助産師の仕事に絶対に生きるはずです」(田口さん)

もちろん、大学院を卒業したら彼女たちの勉強が終わるのではない。むしろ、大学院の学びを通して芽生えた自分だけのテーマを、実践を通して掘り下げていくことが彼女たちのライフワークになる。

千葉さんが興味を持ったのは、日本で生活する外国人の問題。

「外国人女性に対して、助産師としてどのようなサポートができるかを考えていきます」

一方、田口さんは家族の問題に注目している。

「出産で母親が注目されるのは当然ですが、本来は父親も重要な役割を果たさなくてはなりません。私は、そんな父親や家族の支援という視点も持てる助産師になりたいと思っています」

助産師の仕事は、これからが本番だ。

プロフィール

千葉 美音(ちば みおん)さん
大学院看護学研究科 博士前期課程 2年 看護学専攻助産学領域 助産師国家試験受験資格取得コース

母親が出産時、助産師さんに助けてもらったという話を聞いて、自分もいつか助産師になって人のために働く女性になりたいと思ったという千葉さん。「名古屋市立大学の良さは、とても努力家の人が多いこと。そんな人が近くにいてくれるから、どんな辛い時でも頑張ろうと思う力になりました」

看護部2年生 千葉 美音さんと田口 水唯さん

田口 水唯(たぐち みゆい)さん
大学院看護学研究科 博士前期課程 2年 看護学専攻助産学領域 助産師国家試験受験資格取得コース

4年制大学の看護学部で学ぶうちに、看護師にもさまざまな働き方があることに気づき、助産師になるために名古屋市立大学の大学院に進学した田口さん。「2年間は大変でしたが、仲間に支えられながら、とても内容の濃い時間を過ごすことができました」

看護部2年生 千葉 美音さんと田口 水唯さん
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