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卒業生の声

欲張りな薬剤師が果たした 25年ぶりのリベンジ。

薬学部出身の医学博士

木村 和哲さん

名古屋市立大学大学院医学研究科の木村和哲教授(医学博士)は、1980年に本学を卒業した。彼が卒業したのは医学部ではなく薬学部。木村さんは本学の薬学部を卒業した後、出身地である香川県高松市に戻り、一日に約1000名もの外来患者さんが訪れるという総合病院の薬剤部に就職した。しかし薬剤師として仕事をしながら、いつも「このままでいいのか?」と自問していたという。

「私は欲張りですから、医師が書く処方せんに従って調剤を行うだけの仕事では満足できなかったんです」。

医師の場合、臨床と研究の両方を行うケースは珍しくない。それと同じように、ただ院内で調剤や注射薬の払出しだけをするのではなく、臨床の現場で患者さんと接して最終的には処方設計までも行い、一方で薬理学の研究をする薬剤師がいてもいいではないか。それが木村さんの持論である。

後に、彼が勤めていた病院では、彼が医師の回診をヒントにして始めた「薬剤師による回診」が行われるようになったという。

木村 和哲さん

「私が病棟内を回ると、患者さんが病室で待ち構えていてくださって、たくさんの質問をいただきました。『医師には相談しにくいけれど、木村先生だから聞けることがある』などという患者さんの声を聞くたび、薬剤師が臨床の現場に関わることの大切さを実感したものでした」。

一方、高松の病院内に新設された腎臓病センターの研究室で、彼は薬理学の研究にも積極的に取り組んできた。そしてこの時の研究テーマの決め方が、いかにも木村さんらしい。

「私が選んだのは『男性の生殖機能が薬物から受ける影響』というテーマでした。当時、排尿機能や癌の研究者はたくさんいましたが、このテーマを扱う人はほとんどいませんでした。どうせなら、人のやらないことをした方が面白いですからね。泌尿器科の部長を始めとする先生方や薬剤部長、薬剤部の薬剤師達も全面的に協力してくれました。私は本当に恵まれていたと思います」。

25年ぶりに名古屋市立大学へ

木村 和哲さん

その後は徳島大学医学部で医学の博士号を取得。そして卒業からちょうど25年が経過した2005年、彼に転機が訪れた。本学大学院薬学研究科・臨床薬学教育研究センターに助教授(翌年に教授)として迎えられ、再び名古屋に戻ることになった。

実は木村さん、本学大学院薬学研究科への進学を考えていた。しかし受験に失敗し、地元の高松に戻ったという悔しい経験があった。それでも研究を続けたいという夢は諦めきれず、「臨床と研究の両方を手がける薬剤師になる」と決めてさまざまな挑戦を続けてきた。そして2004年、翌年に迫った薬学部教育の6年制移行に向けて教育体制の強化を図ろうとする本学では、医学博士の学位を持ち、研究・臨床の経験もある理想的な教員として木村さんに白羽の矢を立てた。説得に当ったのは、彼の学生時代、(当時は薬品作用学教室の助手として)卒業研究の指導をされていた今泉教授だった。

「正月3カ日、毎日電話がかかってきた」と木村さんがあきれるほどの猛烈なアプローチの末、彼は本学に戻ることを決意した。辛い思いで、去った薬学部に対する25年ぶりのリベンジである。

BSL(臨床実習)Bed Side Learning 5年生を対象とした、院内の薬剤部を中心とした臨床実習

彼のアグレッシブな姿勢は変わらず、ユニークな教育を次々と企画し、実施してきた。たとえば臨床現場のことを学生によく知ってもらうため、医学部・薬学部・看護学部が連携して行う病院実習を実施。今日、この実習は「AMEC」(医療系学部連携チームによる地域参加型学習)という本学の特徴的な実習の一つへと発展し、2009年には文部科学省の「大学教育・学生支援推進事業」にも認定されている。他にも薬学部の学生が大学病院に入院し、臨床の現場を患者さんの立場から見る「体験入院」も彼の発案により実現した。余談だが、新しい薬学研究科の校舎のひとつ、実習棟の模擬薬局等の企画設計を手がけたのも木村さんだ。

3学部連携の学問の推進

BSL(臨床実習)Bed Side Learning 5年生を対象とした、院内の薬剤部を中心とした臨床実習

薬剤師の臨床経験を重視する木村さんの活動に、近年、さらなる追い風が吹き始めている。今日の病院では医師が担う業務が多いため、医師がすべての薬を把握するのが難しい。そこで昨年(2012年)の診療報酬改定で「病棟薬剤業務実施加算」が新設され、薬剤師の活動場所が臨床の現場まで広がった。つまり、彼が理想としてきた薬剤師の仕事ができる環境がようやく整ってきたのだ。

そして今、木村さんは一つの新しい目標を口にする。

臨床処方学 4年生を対象とした座学

「名古屋市立大学のように、学内に医学部と薬学部、看護学部を併せ持つ大学はそれほど多くありません。せっかくそんな素晴らしい環境があるのですから、お互いがもっと盛んに交流し、一緒に臨床・研究に取り組むような大学をつくっていきたいですね」。

25年ぶりのリベンジを果たした木村さんは、次は名古屋市立大学の3つの学部の未来を見すえた教育の推進に挑もうとしている。

プロフィール

木村和哲さん
名古屋市立大学病院 薬剤部長
名古屋市立大学 大学院医学研究科 教授
[略歴]
1980年 高松赤十字病院 薬剤部 勤務
1986年 高松赤十字病院 腎センター 配属
2004年 医学博士号 取得(徳島大学医学部)
2005年 名古屋市立大学 大学院薬学研究科 臨床薬学教育研究センター 助教授
2006年 同 教授に昇任
2009年 名古屋市立大学 大学院医学研究科 臨床薬剤学分野(新設) 教授
     同大学 大学院薬学研究科 病院薬剤学分野(新設) 教授(兼務)
     名古屋市立大学病院 薬剤部長

在学中の木村和哲さん

高校まで吹奏楽部でホルンを吹いていた木村さんは、オーケストラ部に所属。部長も務め、学生時代は部の活動に没頭していたという。現在はオーケストラ部の顧問も務めている。

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