見る・聞く・知る 名市大

卒業生の声

日本でも、アメリカでも、豊田でも、 異文化は「楽しむ」ためにある。

アメリカで異文化に出会う

石本万由子さん

中学3年生の夏休みが迫ったある日、石本万由子さんの父親は家族に重大な発表をした。「仕事の関係で、みんなでアメリカに行く」。なんと出発は2週間後。楽しみだった高校生活は諦めなくてはならない。しかも英語が苦手な彼女には、海外の生活は不安以外の何者でもなかった。

「でも母はアメリカで暮らすことがすごく嬉しそうで、それを見ていたら私もなんだか楽しみになってきました」と石本さん。

どうせなら英語を勉強しようと、アメリカでは現地の学校に入学。最初はまったく会話についていけなかったが、半年もたつとみんなと話せるようになり、友だちもでき、互いの家を訪ねるようになった。そこで彼女は、それぞれの家庭に、生活にねざした考え方や習慣の違いがあることを知った。これが彼女の“異文化”との出会いだった。

「たとえばご飯の前に私たちは『いただきます』と手を合わせます。でも友人の家では神様や家族にお祈りを捧げます。その違いはどこから来るのだろう、といつも不思議でした」。

別所良美教授と石本さん

その答えを求めて、日本に戻った彼女は『帰国子女枠』で本学の人文社会学部国際文化学科に入学した。ここで彼女は、テニス部の顧問であり、後にゼミの指導教員となる別所良美先生をはじめ、多くの人に出会った。

「人文は学ぶテーマがとても広いのが驚きでした。一つを学ぶと新しい分野が気になり、次々と興味がわく毎日でした」。

自分の中にあった異文化

石本万由子さん

ある日、彼女はキャンパス内の掲示板で「ディズニー国際カレッジプログラム参加募集」のポスターを見つけて歓喜した。これは、世界中の学生がアメリカのディズニーワールドで仕事をしながら語学や国際性を学ぶという半年間のインターンシップ制度。アメリカにいた頃からディズニーワールドで働きたいと考えていた彼女は迷わず応募し、見事に選考を通過した。

「当時、私はテニス部の次期主将という立場でした。半年も不在なんてありえません。でも絶対に行きたいと先輩に相談し、認めていただきました」。

ディズニーワールドの職場はマジックキングダムのみやげ物ショップ。住まいはディズニーの寮で、南米の学生3名と韓国の学生1名との相部屋。暮らし始めてすぐ、音楽なしで眠れない南米チームと、音があっては眠れないアジアチームの間で異文化の摩擦を感じたこともある。

石本万由子さん

でも、一緒に暮らすうちに彼女は分かってきた。

「国が違っても、みんな同じ年代の女の子。同じようなことで困ったり悩んだりしていることを知り、それからみんな仲良くなれました」。

こうして彼女は、インターンシップを通して「異文化を楽しむ」ことを学んだ。

しかし一つ残念だったこともある。それは、学生が集まって楽しく話をしていた時のこと。

「自国の好きなところを自慢しようという話になったのですが、他の人はたくさん好きなところが出てくるのに、私は少しも思いつかなかったんです」。

日本は嫌いではない。でも、日本の好きなところを言えない日本人って何だろう。それは、彼女が“日本という異文化”に気づいたということでもある。海外でのインターンシップは、彼女に多くのことを教えてくれた。

異なる文化の中で仕事をする

石本万由子さん

本学を卒業後、彼女は豊田市役所に就職した。そして今、彼女は3つの肩書きを持っている。

一つは豊田市産業部商業観光課の職員。市の観光施設の管理などはこの肩書きで行う。

次に、観光協会の職員。豊田市内の名所・旧跡などの観光地に一人でも多くの方に来ていただけるように広報活動を行ったり、広い豊田市を走り回って情報収集を行う時、彼女はこの肩書きの名刺を持参する。

そしてもう一つ、豊田おいでんまつり実行委員会の事務局。まつり自体の計画・準備・運営を行うだけでなく、まつりの基本の踊りである「おいでん踊り」を多くの方に知っていただくための指導員の手配や調整も行う。

石本万由子さん

「難しいのは、3つの部署に合わせて発想し、行動しなくてはならないこと」。

たとえば市民の誰かから「お奨めのお店を教えてほしい」と言われても、観光協会の職員の立場からなら答えられるが、市の商業観光課の職員の立場で特定の店を教えることはできない。

「自分は今、どの部署の人間として行動しているかをいつも考えなくてはなりません。でも、どの部署でも、最終的に市民の方の笑顔を見られたら私は嬉しいですけど」。

それは部署に合わせて自らの行動を律するということでもある。言い換えれば、これも一つの“異文化”だ。もちろん、彼女はそれを楽しむことを知っている。

「豊田市には、約1万4000人の外国人が住んでおられます。いつか、そういう方を助けてあげられる人になりたいと思います」。

こうして彼女は、母親ゆずりの明るさで、今後も異文化を楽しみ続けていくのだ。

プロフィール

石本万由子さん
豊田市役所 産業部 商業観光課 観光交流担当 主事
[略歴]
2010年 名古屋市立大学 人文社会学部 国際文化学科 卒業
2010年 豊田市役所 入庁

在学中の石本万由子さん

大学入学当時、久しぶりに日本に戻ってきたばかりで友だちも少なく、心細かったという石本さんだが、オリター(新入生を支援する先輩)に助けられて同級生の友だちが増えた。翌年には自分がオリターになり、多くの後輩や同級生、先輩と仲良くなった。硬式テニス部では他学部や他大学の友人がたくさんできた。そしてディズニーワールドのインターンシップで知り合った友人とは今も交流が続いている。名市大の4年間に出会った人々は、すべて彼女の財産になっている。

URL: 豊田市観光協会公式サイト http://www.citytoyota-kankou-jp.org/

卒業生の声 一覧へ戻る