見る・聞く・知る 名市大

卒業生の声

人の話をじっくり聞き、 理解する「専門家」になる。

世界が広がっていく実感

藤掛寛子さん

全国の家庭裁判所には「家庭裁判所調査官」とよばれる専門家がいる。彼らの役割は、家庭裁判所が扱う家事事件・人事訴訟事件・少年事件について当事者、少年及び保護者に面接による調査を行い、事件の原因や経緯を明らかにすると同時に、紛争解決や非行防止に向けた方策を検討し、裁判官に報告すること。特に少年事件の場合、非行を犯した少年の心を開かせるには心理学に関する深い知識と実践経験が求められる。現在、横浜家庭裁判所で家庭裁判所調査官(以下、調査官)として勤務する藤掛寛子さんは、本学の人文社会学部の卒業生だ。

藤掛さんが人文社会学部に進んだのは、「人の話を聞く」仕事への興味だった。子どもの頃から、友人からさまざまな悩みを相談されることが多かった。

「私が一生懸命考えてアドバイスすると、友人はとても嬉しそうで、それを見て私も嬉しくなりました。その時、人の話を聞いて笑顔にしてあげられる仕事がしたいと思ったんです」。

本学に入り、彼女は自分の周囲の世界が劇的に広がっていくことが嬉しかった。

藤掛寛子さんと在学中の友人たち

「高校までは自宅と学校の間を往復するだけでした。でも大学のバドミントン部の仲間とドライブに出かけたり、アルバイトをしてみたり、すべてが初めての経験でした」。

また多くの人と出会い、良い影響を受けながら、彼女自身も大きく成長していった。

「一番影響を受けたのは、同じ学部の友人、佐藤弘子さんです。とても活動的で、誰とでもすぐ仲良くなれる女性でした。彼女に誘われて2年生から『よさこいサークル』に参加し、100人以上の仲間と練習に明け暮れました」。

人生を変えた出会い

藤掛寛子さん

そして2年生の終わり頃、藤掛さんの周囲の世界は再び劇的に変わり始める。きっかけは中川敦子教授に借りた一冊の本だった。

「その本で調査官のことを知りました。人の話を聞き、人を笑顔にできる仕事という意味でも私にピッタリでしたから、絶対にこの仕事に就きたいと思ったんです」。

指導教員の鋤柄増根教授に相談すると、既に広島で調査官として仕事をしている2学年上の先輩を紹介してくれた。彼女はメールで連絡を取り、先輩が名古屋に来た時に会って話を聞いた。

「試験の出題範囲や、それに向けてどんな勉強をすればいいかなど、いろんなことを教えていただきました」。

3年生になり、彼女はサークルをやめ、調査官の受験勉強一本に絞った。

調査官の試験範囲は、心理学の分野でいえば知覚・認知・社会・人格・学習・発達・神経・臨床など、全分野に及ぶ。高い目標ができた分、彼女は今まで以上に授業にも真剣に取り組むようになった。分からないことがあると、鋤柄教授の研究室を訪ね、納得するまで話を聞いた。鋤柄教授も、彼女が分かるまで根気強く教えてくれた。

試験の朝、調査官の先輩から贈られた激励の品である紅茶を飲み、同封のハンカチをお守りにして、家庭裁判所調査官補採用1種試験(現在は、裁判所職員採用総合職試験(院卒・大卒、人間科学区分))に臨んだ。そして、2010年度の合格率14.1倍という難関を見事に突破した。

「報告に行くと、鋤柄教授はとても喜んでくれました。調査官の先輩は、名古屋に来られた時に合格を祝ってくださいました」。

目の前の「人」を理解する仕事

藤掛寛子さん

しかし、合格してすぐに調査官になるのではない。彼女たちは最初に「家庭裁判所調査官補」として各地の家庭裁判所に配属される。同時に、埼玉県和光市にある裁判所職員総合研修所に入所し、研修を受ける。研修期間は2年間で、その間、研修所や配属庁において、調査官として必要な法律知識や行動科学の認識、技法を学んだり、実際の事件を通じて調査実務を修習したりしながら、調査官としての仕事を覚えていく。

「たとえば少年事件の場合、非行を犯した少年や保護者、その他の関係者と面接し、少年が非行に至った動機、原因、生育歴、性格、生活環境などの調査を行います。そして、今後、少年がどのような道筋で更生していくかを考え、そのためにどのような処遇を行うべきかを裁判官に報告します」。

それが調査官としての彼女の仕事。あくまでも目的は少年の「更生」であり、そのための方策を考えるには、まず目の前の少年を理解する必要がある。

「被害者と同じように、犯罪を『許せない』と思う気持ちはあります。被害者の気持ちに配慮しつつ、目の前の少年をどのように理解するかをいつも考えています」。

藤掛寛子さん

研修中は、彼女の面接の様子について上司が、「この言い方だと相手が心を閉ざしてしまうよ」などと、細かく丁寧に指導をする。そのたびに、調査官の仕事の難しさを実感する。逆に、彼女が誠意をこめて声をかけたことで、少年が心を開いてくれたこともある。

「以前、当初は何も話してくれなかった少年が、最終的には『調査官に言われて納得したから』と、事件の詳細を正直に話してくれたことがありました。そのとき、自分の言葉が少年に届いたことを実感し、とても嬉しく思いました」。

「私の一番の課題は、人間としての幅を広げることだと思っています。そのためには、たくさんの本を読み、いろんな人の生き方や考え方に触れなさいと先輩から教えていただきました。これからが、調査官としての私の本当の勉強だと思います」。

藤掛さんの『世界』は、これからも大きく広がっていこうとしている。

プロフィール

藤掛寛子さん
横浜家庭裁判所 家庭裁判所調査官
[略歴]
2011年 名古屋市立大学 人文社会学部 卒業
     横浜家庭裁判所 家庭裁判所調査官補

大学に入ってから興味・関心の幅が大きく広がったという藤掛さん。特に1年の時にバドミントン部のメンバーといろんな場所に出かけてから旅行が大好きになり、国内はもとよりグアムや韓国、イタリア、スペインなどに出かけた。「たくさん旅行に行くことができるのは、学生の特権です。社会人になってなかなか時間がとれなくなりましたが、これからもできる限りいろんな国に出かけ、視野を広げていきたいです。」と語る。

友人たちとイタリア旅行の思い出写真

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