見る・聞く・知る 名市大

卒業生の声

答えのない問題を出題し、その答えを自分で探し続ける。

自分の答えの正しさを、自分で証明する

高校時代、政治・経済の授業で「経済が面白い」と思ったという一海さん。本学のオープンキャンパスで模擬講義を受けてますます経済学について興味がふくらみ、本学の経済学部を選んだ。

しかし入学後、彼女は大学の授業が高校とはかなり進め方が違うことに驚いた。

「高校までは、先生が出す問題には答えがあり、答え合わせをすれば正解・不正解が分かりました。でも大学で出される問題は違っていました」。

大学の経済学が扱う問題には、正解・不正解はない。だから「どういう道筋で考えたから、自分の答えは正しい」という論拠を自分で用意しなくてはならない。この、自分の頭で考えるというプロセスが、彼女にはとても楽しかった。

本学経済学部では、学生は2年生になると「公共政策学科」「マネジメントシステム学科」「会計ファイナンス学科」の3学科から、自分の興味に合わせて学科を選ぶ。そして3年生になるとゼミを選び、自分が取り組む分野を決める。しかし経済学部では、より多くの人と意見交換しながら成長してもらうため、学科の枠に関係なくゼミを選ぶことができる。

森田雄一教授と一海稚賀さん

マネジメントシステム学科に進んだ彼女は、公共政策学科の森田雄一先生(財政学)のゼミに参加した。ここで彼女は『中部経済学インターゼミ』という研究会に出会い、経済学をいっそう面白く感じるようになった。

「インターゼミとは、名古屋地区の大学の経済学部生が自由なテーマで研究を行い、その成果を発表するという研究会で、森田ゼミも参加していました。最初にゼミ紹介でインターゼミの話を聞き、ぜひ私も参加したいと思いました」。

答えの正しさを自分で証明するだけではない。インターゼミでは、自分が取り組む経済学の研究テーマそのものを自由に選ぶ。彼女には、それが大きな魅力だったのだ。

データがなければ、自分でみつければいい。

一海稚賀さん

彼女はゼミ仲間と3名のグループを組み、さっそく研究テーマ選びに取りかかった。

「ちょうどその年の2月、名古屋市交通局と名古屋鉄道で共通利用できるICカード『マナカ』の運用が始まったばかりで、それを研究テーマに選びました」。

基本的に、学生たちが決めたテーマに先生が口をはさむことはない。しかし一海さんたちのグループのテーマを聞き、森田先生は不安を口にした。

「確かに新しくて面白いテーマだけど、運用から間もないから、もしかしたらデータ集めに苦労するかも知れないね」。

経済学をはじめ社会科学系の研究では、官公庁や企業の統計資料をインターネットなどで探し、必要なデータを取捨選択して検証するという方法が一般的だ。しかし運用開始から間もないマナカに、検証に必要な量のデータがあるのだろうか、というのが先生の懸念である。

しかし彼女たちはめげなかった。

「誰もやったことがないテーマですから、データが少ないのは当たり前。むしろ、データがなければ自分たちで調べようと思っていました」。

夏休み、彼女たちのグループは毎日のように地下鉄の駅に集まってデータを採取した。改札口でマナカ利用者を数え、構内でマナカのポスターの枚数を調べ、売店の売上推移を聞いた。翌日は別の駅に行き、同じ調査を繰り返した。それでも足りないデータは、直接市役所を訪ねて担当部署に取材を行った。

お客様の立場から問題を考えて見る。

次は、膨大なデータを解析しなくてはならない。3人で遅くまでコンピュータルームに残り、データからどんな仮説が立てられるか、それを検証するにはどんな情報が必要かを話し合った。

「自分一人なら、自分の好きなように進めるのですが、今回は3人が納得できる着地点を見つけるのに苦労しました」。

話し合いに行き詰まると、彼女はできるだけ別の角度から意見を述べるように心がけた。

「たとえば『鉄道会社や市役所の立場ではなく、お客様の視点からこの問題はどう見えるんだろう』という発想で意見を出すようにしました。こうすることで、まったく違う方向性が見つかったこともありました」。

データの分析に関して大きな壁は、大量のデータをどうやって解析すればいいか分からないということだった。森田先生に相談すると、それなら『回帰分析』(※)が適していると教えていただいた。そこで3人は懸命に回帰分析を勉強し、乗降客数とマナカ使用率の関係を示す数式【manaca使用割合=0.255684+3.63E-06×(乗降客数)-0.7755×(老齢人口比率) 】を完成させた。そして最終的に「乗降客数が多い駅ほどマナカの使用率が高く、老齢人口が高い地域ほど利用率が下がる」という結論を導き出した。

インターンゼミを終えて

インターゼミの発表では、名古屋地区の経済学の研究者を前に「高齢者に対して電子マネーをさらにアピールする必要があり、さらに利用可能施設の拡充も必要」という提言を行った。

「プレゼン終了後、多くの先生から、データを自分たちで集めたことで『自分たちの研究になっているね』と評価していただき、とても嬉しく思いました」。

自分のゴールと、会社のゴール

この活動を通して、ある課題に対してみんなが納得できる答えを導くには、まず仮説を立て、自分でデータを探し、さまざまな立場から検証が必要だということを学んだ。そして今日、このプロセスがそのまま仕事に役立っているという。

職場での一海稚賀さん

「今、東邦ガスの四日市営業所で、新規顧客の開拓をしています。私の仕事上のゴールは契約の受注ですが、東邦ガスの立場で考えると、本当のゴールは地域のお客様により良い暮らしをしていただくことではないかと思います」。

そのために、どこからどんな情報を入手し、お客様に対してどんな提案をすればいいのかを、彼女はいつも考えている。それは、社会人一年目の彼女にとって、とてもハードルが高い課題かも知れない。しかし、それは彼女にとって大きな問題ではない。なぜなら、データがなければ自力で調べればいいだけの話だから。

そして今日も、答えのない問題を解くために、彼女は四日市の街を走り回る。

※回帰分析:ある数値が変化するとき、その原因となる別の数値の変化との関係を数式によって表すという統計的手法。【manaca使用割合=0.255684+3.63E-06×(乗降客数)-0.7755×(老齢人口比率) 】という数式では、その時点での地下鉄駅でのマナカ使用割合は約25.57%であり、乗降客が1万人増えるとマナカ使用割合は3.63%上がり、老齢人口比率が1%上がるとマナカ使用割合が0.76%下がる、という意味。

プロフィール

一海稚賀さん
東邦ガス株式会社 四日市営業所営業課
[略歴]
2013年 名古屋市立大学 経済学部 卒業
     東邦ガス株式会社 入社

大学時代は広報サークル「NCU.info」に所属し、大学広報の新聞や各種広報物の作成に携わっていた一海さん。そこでは「人に情報を伝える」ことの大切さと面白さを学んだという。その経験から、将来は広報や人事など、何らかの形で「情報を伝える」仕事をしたいと考えている。名市大で出会ったさまざまなことが、その後の彼女の生活を形作る大きなきっかけになっている。

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