見る・聞く・知る 名市大

卒業生の声

自分で調べ、考え、知見を生み出す。 今日も彼女の勉強は続く。

経済学部では何を学ぶか

伊藤裕子さん

たとえば医学部や薬学部で学ぶ内容の多くは、それぞれの専門職で直面する課題への対処法に直結している。しかし一般的に、経済学部をはじめとする社会学系の学部では、将来の職業が多岐に渡るため、それぞれの課題に直結した内容を学ぶことは少ない。その代わり、こういった社会学系の学部では、もう一つのとても大切なことを学ぶ。

「私が経済学部では学んだのは、自分で調べ、考え、そこから新しい知見を生み出すというプロセスでした」と語るのは、2011年に本学経済学部を卒業した伊藤裕子さん。

伊藤さんは高校時代から政治・経済が好きで経済学部に進んだ。2年生になって地方公務員に目標を絞って「公共政策コース」に進み、3年次には森徹教授の「地方財政論」のゼミを選んだ。

「森先生のゼミで一番面白かったのは、『共同研究』という活動でした」。

これは、ゼミ生全員で毎年一つのテーマを決めて調査・研究し、関西大学・関西学院大学・同志社大学と合同で研究発表を行うというもの。例年「名古屋市の防災対策」や「セントレア開港による経済効果」など、多彩なテーマで研究が行われる。その年に森ゼミ生が選んだのは「名古屋市の放置自転車」の問題だった。

森徹教授と伊藤裕子さん

「以前は名古屋市内の放置自転車の数は名古屋駅周辺が最多でしたが、その前年、栄周辺が最多になったというニュースを見ました。そこで、名古屋駅の放置自転車が減った原因を探り、自治体はこの問題にどう対処すべきかを考えようと思ったんです」。

彼女たちは実際に名古屋市内を歩き回り、放置自転車の数や駐輪場の利用状況を調査した。また学内でアンケートを実施し、なぜ自転車を放置してしまうか、もし自転車を撤去された場合、反則金がいくらまでなら引き取りに行くか、また駐輪場の利用料金の適正価格はいくらかなどを、時間をかけて調べた。

「最終的に、放置自転車の数を減らすには、ただ撤去するだけでは効果が薄く、有料の駐輪場の数を増やすなど、さまざまな方策を組み合わせる必要があることが分かりました」。

街は、政策で動いている

職場での伊藤裕子さん

「しかし、政策立案をすることが、共同研究の最終目的ではありません」と語るのは、指導教員の森先生。

「目的は、学生が自分たちで問題を見つけ、調査し、結論を導き出すこと。だから誰に話を聞くか、どのように進めるかは学生に任せています。そしてこの研究を通して、地方財政と密接に結びつく政策がどのような考え方で決まっていくかを理解してほしいのです」。

経済学では、教科書を開くことだけが勉強ではない。「その裏側にあるのは何だろう」という視点を持っていれば、毎日、目に映るすべてが経済学の勉強になる。

「私たちが普段、何気なく見ている駅の駐輪場にも市の政策が関係しており、その背景に私たち市民がいるということがよく分かりました」と伊藤さん。

伊藤裕子さん

学ぶうちに、ますます地方公務員になりたい気持ちが強くなった。3年生になると週に1回、資格の専門学校に通って本格的に試験の勉強を始めた。3年生の後半からは専門学校に通うと同時に、空き時間を見つけて大学の自習室でひたすら問題集を解いた。そして、伊藤さんは見事に愛知県の公務員試験に合格した。

愛知県では、公務員試験の合格者は配属部署の希望を聞かれる。彼女は「土木関連の部署」と答えた。

「大学で土木を専攻した技術者なら別ですが、文系で、しかも女性で土木志望者は珍しかったようで、多くの人から『どうして土木?』と質問されました」。

彼女が土木を選んだ理由は、ものづくりの実感を味わえる部署だったから。

「それに土木関連部署は、橋梁や道路など私たちの生活に身近な物を扱います。ですから大学で学んだ『すべての物の背景に政策がある』ことを、最もリアルに感じられる部署だと思ったからです」。

河川を維持・管理する仕事

伊藤裕子さん

現在、伊藤さんは愛知県の一宮建設事務所の維持管理課に勤務する。

「一宮建設事務所は一宮市、犬山市、江南市、稲沢市、岩倉市、大口町、扶桑町の5市2町の河川や道路等の維持管理をしています。その中で私は河川に関する許認可の仕事をしています」。

しかし河川は住民の暮らしと密接に結びついているため、住民から連絡があると彼女たちは現場に急行する。

「たとえば川で魚が死んでいると、アミで魚を回収し、その原因を調べるために水質試験を依頼します」。

そんな彼女たちが、最も気にするのは天気だという。

「管内に大雨、洪水の注意報等が出ると『非常配備』となり、当番の職員はどんな土砂降りでも、どんな時間帯でもすみやかに事務所に行かなくてはなりません」。

もし河川が氾濫すると被害は広範囲に及ぶため、当番は事務所で待機して河川の水位情報を監視する。当番でなくても水位情報はリアルタイムに携帯電話に送られてくるため、彼女は自宅にいても川が気になって仕方ないという。

伊藤裕子さん

「私も何度か非常配備を経験しましたが、まだ知識不足で、どうしても上司の判断が必要です。これからもっと経験を積み、法律や政策を勉強しようと思います」。

一般的に、公務員は一つの部署に何年間も在籍することは少なく、多くの部署を経験しながら行政を学んでいく。だから数年後、彼女も土木を離れて別の部署に行くに違いない。

「でも、いろんな部署で経験を積み、将来は土木関連部署に戻ってきたいと思っています」。

だからこそ彼女は、毎日、自分で調べ、考え、新しい知見を生み出すプロセスを実践している。今でも、彼女が仕事で出会うすべてが、彼女にとって勉強なのだ。

プロフィール

伊藤裕子さん
愛知県庁 一宮建設事務所
[略歴]
2011年 名古屋市立大学 経済学部 卒業
     愛知県庁 一宮建設事務所 入庁

卒業式後の謝恩会にて(森ゼミのメンバーと)

高校まで運動系の部活をしてこなかったので、大学では運動部に入ろうと決めた伊藤さん。新入生を対象とする部活紹介で見た演舞に魅了され、「日本拳法部」に入部。同期が次々と辞めても彼女は練習に励み、最終的には初段を獲得した。今でも時々、知人から頼まれて日本拳法の「型」を披露することがあるとか。

卒業生の声 一覧へ戻る